2013年12月30日月曜日

誰もがそれを知っている

あれが欲しいこれが欲しい
欲望願い事全開で
サンタに神様ランプの魔人に
お願いするけどさ
もらったものと掴んだものって違うよね
確かなものって
それが消えたあとだって
残って行くんだ
ほんとに欲しい物って
もうすでに持ってることばかりで
まとわりついてる
余計なものを戻してあげること
正しい流れの中に放してあげること
僕らに出来ることの全ては
あるべきとことろに
あるべきものを還すこと
僕らに出来ることの全ては
あるべき時に
あるべきところにいること
僕らはもう誰もがそれを知っている

2013年12月15日日曜日

時の光


時の節が光輝き
今も果てに向かい
放たれ続けている
時折、越えて
皆々の首筋を
通りすぎ
振り返らせる
時の光を撫ぜて
哀しい季節を慰めている

2013年12月9日月曜日

ラウンド ミッドナイト

枝から小鳥が飛び立つように
今夜が明日になる
灯が浮き上がらせる
遠いところで
呼吸すらどこまでも届いてしまうくらい
夜が更けて
私の心が何も言わなくても伝わってゆくようね
夜が更けて
あなたの心が何も言わなくても届いてゆくようね
枝から小鳥が飛び立つように
今夜が明日になる
夜のまわりでは

2013年12月7日土曜日

わけもなく

わたしが好きだっから
あなたは嫌ったのでしょう
あなたが好きだったから
わたしは嫌ったのでしょう
そのほかの、わけもなく

2013年12月6日金曜日

秘密保護法

秘密保護法の法案が可決し
実施されましたら
私はこの国では
罪人でありますから
自主します。

知りたいねぇ
一体何が国益を害する情報なのか
徹底的に
知りたいねぇ

2013年12月1日日曜日

マッチ箱

ぶつかりこすれて発火
おいしいものひとつ
たのしいことひとつ

ぶつかりこすれて発火
くるしいことひとつ
かなしいことひとつ

かかわりの中で初めて灯る
次は何色が灯る
しけてるのもたまにはあるよね

ぶつかりこすれて発火
愛することがひとつ
あたらしいいのちがひとつ

そうしていつしか
箱の中には最後のひとつ
ぶつかりこすれて発火

またね

2013年11月25日月曜日

地上月下
阿吽の呼吸
阿呆瞑想
殻の体に
鐘の音なりて
幻想失せて
悟りへ至る

2013年11月22日金曜日

丈夫でいるか

大切な人とはそばにいること
植木とジョウロみたいに大切にできるから

話したい人とはそばにいること
海と波みたいに話すことができるから

好きな人とはそばにいること
コーヒーとカップみたいに好きでいられることができるから

愛する人とそばにいることができないときは
月と太陽みたいにいることを想っていること

丈夫でいるか旅先の風や星や雲にたずねて

2013年11月21日木曜日

雨粒と陽光

一見どれも同じように見えますが、その存在というものは唯一無比のものなのです。一見どこにでもあるように見えますが、その存在はそこにしか存在しないものなのです。空から降る雨粒の軌道がどれも違うように。陽光がやはりそれぞれ、照らす場所の違うように。

2013年11月17日日曜日

秘密

秘密といって
内緒といって
聞かれることを隠さないのは
ふれられぬ鐘の音のよう

つもる秘密は
影をつくる
見られることを隠さないのは
触れられぬ陽光のよう

マルタ島の猫が
昼飯はまだかと
あくびをしている

2013年11月14日木曜日

ブルドーザーに挺して

朝陽が私の頬を暖めている
明日もこうして私は
ぬくもりを受けられるだろうか
陽のあるうちに私が
なすべきことがあるのだろうか
会いたかった人もいる
言いたかったこともある
創りたかったものもある
正確無比のブルドーザーのように
進んでいく今日に
限りの鉄槌を打ち込み
尽きればいい
なすことがあるならば
明日は目覚める


2013年11月12日火曜日

立冬

雨上がりに寒気が訪れ
季節が衣替えをして次の春に備えている
湯気を囲んで誰かといる懐かしさを
私たちは思い出している


2013年11月10日日曜日

バベルのとぐろ

排泄をするたびに
私は生きているのだと思う
飲んだり食べたりして
日々というか景色
個室の便器に座って
忘れてしまおうというのでもないが
ためておけないそれらを排泄する

どんな動物も植物も
生命体であれば
死と同じように平等
人はそれを隠しておくことで
性を取り除いて神に近づこうと
バベルのとぐろをまく

アイドルは今日も
スイーツをむさぼるように
頑是ない排泄をしている

2013年11月8日金曜日

岬あたり

2つの花が風にゆられてないていた
丘の上の夕日が落ちてゆくように
底のみえない崖の先に立ち尽くす
何処へゆくこともない木々も
かつては空を飛んでいたことを知っているように
土中の水脈を探しては倒れぬようにもぐるのだ
湖の中でおよぐ雷魚がまちがえないように
ゆすられた大地をのみこもうとした
ちぎれた風景をつないでいこうにも
短すぎるオリーブのつたが
ただ壁のうちをはうだけなのだ
忘れられた岩が潮風を受けて
やはりないている
だれともなくどこからともなく
やはりないている

2013年11月5日火曜日

昼間のよに明るい夜に

珈琲店をみつけはいりこむ
警官がせわしなく歩いている
びりやあどの玉パチンコ玉のように
人々が散っては集まり散っては集まりしている

私はまた眠気が来て
コクりとなった
私が明日の夢を見た
夢の中で私は一日多く生きて
気がつくとまたコーヒー店であった

誰か一人くらい知った顔に合うかと
淡く想った
だがその時わかったのは
誰も私を想うものはないのだと

ウエイターすらも私を気に止めない
そして私も誰も想わなかった

紙を取り出して
詩でも書くがどうもすべらない
そのうち眠くなり
コクりとなった

表に出ると
アジア女性が腕に絡みつき
声をかけてくる
金はあったが女を抱く気にならない

再び空を見上げると
ここは行き止まりなのだと気づく

駅前にはあきらめて眠る人
あきらめず男を誘う男
女を誘う男
男を誘う女

行き止まりなのにどこへ行こうと
さそうのか、
暖まりたいだけなのだ
彼らは暖まりたいだけなのだ

その日僕は考え事をして
終電を逃して
帰る場所を失って空を見上げていた
昼間のよに明るいが
暖かくはない

始発まで突っ立っていようかと思ったが
寒さがこたえた
わざと賑やかな居酒屋に入る
さわぎ回る学生やOL達の声の中
カウンターで好きにやる
が一時間しないうちに
酔いもまわり腹もふくれ
携帯の充電も切れた

朝が来て
みな帰るところをみつけて
どこかへ行ってしまった
私も動き始めた電車にのって

空からホウキのような光が
街を掃いていた




いつかあなたのいない日

いつかあなたのいない日
空はそれでも青く澄み

いつかあなたのいない日
木々はそれでも風になびき

いつかあなたのいない日
海はそれでも打ち寄せて

いつかあなたのいない日
鳥たちはそれでも歌っている

いつかあなたのいない日
僕はそれでも憶えてる

2013年11月3日日曜日

夕暮れは短い

夕暮れは短い
そこにいられる時間は短い
穏やかにいたいと思う

夕暮れどき
街の屋根の先に
いつかみたひまわり

ゆれている
来たみち
帰るみち

どこかで球児たちの
声が聞こえる
追いかけて

峠の中でつぶやいて
そうかな
そうだね

ゆれている
来たみち
帰るみち


2013年10月31日木曜日

遠い島

風が吹いて
雲が流れ
影が走る

猫が歩いて
鳥が飛んで
魚が泳ぐ

ハイビスカスが揺れて
芝生が香り
木々が歌う

波が繰り返し
山が佇み
空が息をする

また

風が吹いて・・・

日常

いずれ世界は可愛さの前にひれ伏すだろう。
やがて世界は美しさの中に孕まれるだろう。

2013年10月24日木曜日

2013年10月21日月曜日

楽園

腹を減らしながら道をゆく
始まりがどこであったかはもうぼんやりして
足をむしり取ってほおばりながら
踏みつけにしてきた小石や土が
もうぜんと主張し始め突刺しまとわりつく
行こうとする僕をとどめて
空から落ちてくる太陽に焼き尽くされ
I am
I am
歩かなくては死ぬ
進まなくては死ぬ
飢えを満たすのは肉しかない
肉を喰らうまでは進むしかないガイコツ
肉を喰らうとき
動かず誰かがくらいに来るのを待つのだ
ああ、それにしてもまだ風は吹かないのか
風さえ吹けば少しは思い出をたどれるというのに
北の山脈
西の夕陽
東の岸辺
南の島々
トレーラー、ガスタンク、ブォブォ
目指しているのは楽園
人と離れ故郷と離れ
鋼鉄の創造物に追われながら
僕自身を食い破りながら進む
カバンの中に今朝、安宿でくすねた
干からびたパン 
そこに含まれる


今はただ行かなくてはならない
道を行かなくてはならない
ガイコツになって骨、しゃぶりながら

2013年10月16日水曜日

ドロップ

ドロップなめて
公園をあるく
象のすべりだい
ねこのブランコ
キツネがとびだして
そらに飛んでいく

美人モンスター

ホテルいこっか
抱かれてもいいなーしよしよしよ
僕は攻略されている

これ食べなよ
はいプレゼントーしよしよしよ
忍び寄る圧力

だれかが好きなの
私さみしいなーしよしよしよ
美人モンスター

コレクションして
食いやぶっては
渡り歩く

美人の姿をした熱量に
僕の愛が死んでゆく
美人モンスターーしよしよしよ

美人は好きだが
モンスターはにがて

女は好きだが
モンスターはにがて

君は好きだが
モンスターはにがて

もう少しおとなしくーよしよしよし
美人モンスターーよしよしよしよし




たんぽぽレジスタンス

同じ詩をうたい続けて
世界に蓄積させていくのだ
やさしく陽気な生きた愛の言葉

命を割いて紡いでゆく
宿命へのレジスタンス
運命からのレコンキスタ

言葉の水滴が降り注ぐ限り
どこへでも水脈は現れる

コンクリの街に閉じ込められながら
根を張るたんぽぽのように
繰り返し繰り返し求めてゆく

意思のゆくえに詩が咲く
自己へのレジスタンス
均一からのレコンキスタ

やがて詩は綿毛をまとい飛んでゆく
そして詩が新たな心に落ちる

朽ちることなく


2013年10月7日月曜日

親父さんのイーゼル

すべての色と形を受け止める用意を整えて
斜め上の天井を見上げている

根を降ろす場所を知ってか知らずか
落ち着き払った、たたずまい
かつて木であった記憶を向き合うものにも流し込む

自らの役目を知り
使いやすいように穴を開け
頑丈に足組みしながら
黙して出しゃばらず
必要ないときはたたまれ影にて待つ

街中の喧騒であろうとも
嵐の吹き荒れる断崖であろうも
哀しみにくれる闇夜であろうとも
不動のイーゼル

であるからして
向かう精神は自由でいられる

世界はまた確かな柱を得た
とんぼが懐かしくてとどまりさえする

2013年10月4日金曜日

高円寺ららばい

誰かと通り過ぎる毎日
心にだけ残る思い出
夢のまたたきの中で色づいてゆく

商店街の店先で売っていた
コロッケをかじりながら
見上げた空に浮かぶ君の微笑み

喜びも悲しみも飲み込んで
夜を招いて沈んでゆく太陽

高円寺ららばい
明日も朝が来るのを知っているから

高円寺ららばい
陽気な音だけ抱きしめて


夜空に広がる星のように
どれも同じに見える光の中に
君のためにだけ輝く星がある

この世界にあふれる人のように
誰も無関係に見える姿の中に
君の到着を待つ眼差しがある

目を閉じるから君を思い出せるように
闇夜が来るから誰かを愛せるように

高円寺ららばい
その星を探して

高円寺ららばい
好きな歌を口づさみながら


愛してるの言葉が
白々しく聞こえるのなら
さようならと言えばいいさ

生きているこの街でならば
聞こえるはずだよ心の音が
今夜も君のいる場所で


高円寺ららばい
誰もが寝静まるまで

高円寺ららばい
我らの夜に

高円寺ららばい
宴の用意は整った!
さあ乾杯!

2013年9月29日日曜日

風と共に

夏の終わりは
恋の終わりに
にて―向日葵

春は始まり
秋は予感
冬ははぐぐみ―こよみ

真夏に憧れて
私もまた
季節を巡る―風と共に

青春

胸の高鳴り
それはつまり
青春

2013年9月23日月曜日

2013年9月22日日曜日

ふと、触れた、見知らぬ人の音と言葉より想起した、ひとつの言葉

触れる世界のかけらを記していくことで移ろい
そのもの、あるいは全く違う何かとして
誰かの心に浮かぶものがあるのかもしれない
いつくしい言葉として、あるいは音として。

2013年9月19日木曜日

ようこそゲームへ

ようこそゲームへ

戦い 獲得
戦い ダンジョンクリア
戦い 新しいステージです
戦い 獲得

レベルアップ 合成
レベルアップ 進化
レベルアップ 合成
レベルアップ 進化

戦い レベルアップ
戦い レベルアップ
戦い レベルアップ

データが消えました

ようこそゲームへ

戦い 獲得
戦い ダンジョンクリア
合成 進化
戦い レベルアップ
戦い レベルアップ・・・

おめでとうございます
あなたは最後のダンジョンをクリアしました
おめでとうございます
あなたのレベルは最高に達しました

あなたのプレイ時間は
26万2千8百時間です。

ようこそ新しいゲームへ

戦い 獲得
戦い ダンジョンクリア
戦い 新しいステージです
戦い 獲得

レベルアップ 合成
レベルアップ 進化
レベルアップ 合成
レベルアップ 進化

戦い レベルアップ
戦い レベルアップ
戦い レベルアップ

データが消えました

ようこそ新しいゲームへ

戦い 獲得
戦い ダンジョンクリア
合成 進化
戦い レベルアップ
戦い レベルアップ・・・

おめでとうございます
あなたは最後のダンジョンをクリアしました
おめでとうございます
あなたのレベルは最高に達しました

あなたのプレイ時間は
52万5千6百時間です

ようこそまったく新しいゲームへ・・・

2013年9月18日水曜日

九月のソネット


月の光が届くように

誰かを照らすものであればと

伏し目がちに呟いて

鋭く震える芯をにぎりしめて

明日へ明日へと

羽衣をひるがえしながらかけてゆく

 

夜の林道に唄う鈴虫らを

夜明けまで浮き上がらせて

 

立ち上がる雲に遠雷を聞きながら

パラソルを見つければ拾い上げ

雨よ降れ!と投げつける

降りだした雨粒に打たれながら

言葉をしみこませては

七色の虹を空にかける

 

赤い長靴を履いた少女を

いつまでも胸に抱いて

2013年9月16日月曜日

嵐の中のプルースト

雨だというのに行くのですね
嵐だというのに行くのですね
道がないというのに行くのですね
独りだというのに行くのですね

行ってらっしゃい
お気をつけて
まだどこかで

雨だから行かないのですね
嵐だから行かないのですね
道がないから行かないのですね
独りだから行かないのですね

行ってきます
ありがとう
いつか帰ります

台風で空がうなる中
部屋の中で僕は
プルーストの「失われた時を求めて」を読む
ヨーロッパの家の寝室のベットの上の男の
記憶を食べるようにたどるのだ
終わることなど忘れたかのように

行ってらっしゃい
ありがとう
またどこかで




2013年9月15日日曜日

雨の朝にふさぐ

雨降る朝の街並み
さまよえば
同じベクトルの延長線上に
まよいこんだ
忘れられた梨の片隅
すなわち実存が
耳を澄ませて
わずかな風の音を
聴いている
昨日の胸があたる
明日の温度が伝う
生々しさを乗り越えられず
記憶が世界をふさいでいく

2013年9月7日土曜日

西陽

西陽が
君の
顎下の
そよぐ
産毛を
透かして
いる

君は
気づいて
いない

西陽
ついて


2013年9月5日木曜日

夏のあいだ鳴いていた蝉らが
腹をむき出しにしてそこかしこ
息絶え絶えに羽をばたつかせ
路上に溝に落ちている

もう飛べぬ

しがみつく幹もない
蟻が集まり体を運んでゆく

喰われている

蝉という存在は失われながら
軽さに包まれ浮かんでゆく
集合体としての鳴き声が
再び巡る夏の幻影をつくっている

2013年8月21日水曜日

豚と宇宙


養豚場で配られている冊子の中に
著名な詩人が書いた詩が載っていた
豚と向きあって自分と世界を獲得して謳っていた。

あぁ、私は
豚について詩に書いたことがなかった
そういえば
巨人の福王選手についても
殿様バッタについても
デ・トマソ・パンセーラについても書いたことがなかった。

Googleがすべての文字をデータ化しているように
詩人達はいちいち詩にして
追いかけっこ
そして宇宙は光速の3倍の速度で広がっている。




2013年8月20日火曜日

季節はずれ

歌が好きで上京して
高円寺のライブハウスで唄っていたよ
細身のギタリストが
声がかわいいねって言ってくれた
もう君の誕生日がいつだったか忘れたけど
2人で馬橋公園の桜を見ながら作った曲は
忘れられなくて

帰ってきなさいと正月の度に家族に言われて
肩書が立派な写真を見せられて
歌をを唄っていたのと言ったら
バカにしたみたいに笑うから
水をぶっかけたよ見合いの席で

季節がまだでみあげても
なんにもない
咲いててほしかったよ桜
2人で馬橋公園で見上げた桜が
咲いててほしかったよ
どんなぬくもりだったか忘れたけれど
2人の桜の歌
季節はずれに口ずさんだよ

2013年8月3日土曜日

沖で

ちんどん屋がラッパ吹き鳴らし
白いパラソルを掲げながら
大名行列の真似をして
忘れられた時代と
これからの時代を行き来している

その脇をまきとられぬよう
掘り返された美しい鉱石を
大事そうに抱え
灰の街を歩いてゆく人がいる

生れたばかりの言葉のしずくを
口のなかで転がしながら
地下鉄へと乗り込んで
遠くへ遠くへ行こうとしている

辿り着いた夜の海に幻を流しては
沖でかすかに揺らしている

2013年8月2日金曜日

月が見ていた

しのびしのび込む光と影
蛍光灯の点滅
ガスボンベの路地
魚のさかさのうろこ

八百屋のトマトは転げ
はい回る女の髪がほぐれ
みえかくれする
きえあらわれする
こだまとはりの
真ん中のステップ

待ちわびた風が
青いふろしきを叩いて
蝉のなく季節を祝う

月が見ていた

2013年8月1日木曜日

風車

はだけたシャツの隙間から
白い君の肌がのぞいて
赤く染まるほおを恥ずかしげに隠した

夕立が上がったあとの光る道を
風と一緒にふらふらと歩いて
出逢ったのがいつだか思い出していた

10年先がどうなるかなんて
考えるふりをして君の素振り
とどまる時の中でさぐっていた

次の約束をしないままに
音の速さで今が思い出に変わってゆく
さよならを告げないままに
カラカラと回る風車に
僕らの景色もまぎれはじめる

2013年7月31日水曜日

夜更けのBARで

ふたつのグラスが飲み乾され
底にわずかに酒が残る
ひとつのグラスはかたずけられ
そこに新たに酒が注がえる

2013年7月29日月曜日

会いたいです

会いたいです
あなたに会いたいです
そろそろ会いたいです
忘れてしまわぬうちに会いたいです
死んでしまう前に会いたいです
深夜詩を記しているときだけ
2人の間に流れた共通のことばだけ記しているときだけ
会うというのではなくほんとうに会いたいです

あなたとの約束を
あなたの名前を
あなたの姿を
あなたの声が
毎日に押し出されるように消えてしまう前に
時間のない僕らに
朝陽は好きよと眺めて
閉じ込めておけないと
昇りゆく太陽がおしえていた

あなたといた場所は変わらぬ朝陽を
今も受け続けているのだと
遠く離れた地点から眺めている
あなたと交わした会話
あなたと見た景色
ぼんやりと思いだすように眺めている
そんな
あなたを
わたしを
ことばを
輪郭を
約束を
明日を
忘れてしまえるほど
あなたに会いたいです

2013年7月28日日曜日

物語詩 耳なし芳一

昔、下ノ関海峡の壇ノ浦で、平家と源氏の、永い争いの最後の戦があった。

平家は、その一族の婦人子供ならびにその幼帝と共に、まったく滅亡した。

そうしてその海と浜辺とはその怨霊に祟られていた……


夜、漕ぎ行く船のほとりに立ち顕れ、それを沈めようとし、

また水泳する人をたえず待ち受けていては、それを引きずり込もうとするのである。

これ等の死者を慰めるために建てられたのが阿彌陀寺であった。

墓地は寺のそばの海岸につくられた。


この阿彌陀寺に芳一という目の見えない男が住んでいた。

この男は謳いながら、琵琶を弾くのがうまく

壇ノ浦の戦の歌を謡うと誰もが涙をながした。

この寺の住職は芸事が好きで芳一を住まわせていた。


ある夏の夜の事、住職は芳一だけを寺に残して出かけた。

ビーン ビーン ビーン ビーン

芳一は縁側に出て琵琶を練習しながら住職の帰りを待った。

 夜半過ぎ裏門から近よって来る足音が聞えた。

ジャ ジャ ジャ ジャリ ジャリ

『芳一!』

 『芳一!』

それは住職ではなかった。

『私は盲目で御座います!

――どなたがお呼びになるのか解りません!』


『何も恐わがる事はない、

拙者は近くに住むの殿の使いだ。

お前が戦争(いくさ)話を語るのが、うまいと聞きつけ

演奏をお聞きになりたいとの御所望である

琵琶をもち即刻拙者と来るがよい』


 当時、侍の命令と云えば反くわけにはいかなかった。
芳一は草履をはき琵琶をもち、ついて行った。

ヒヤリヒヤリ

手引きをしたその手は鉄のようであった。

カタカタカタカタ

武者の足どりは甲冑をつけている事を示した――


芳一は自分の幸運を考え始めた――

自分の唄を聞きたいという殿様はきっと一流の方に外ならぬと


やがて侍は立ち止った。

「開門!」

 ガガガガガ

閂(かんぬき)を抜く音がして、二人は中へ這入って行った。

シャシャシャシャシャ
サササササ

 ススススス

 急いで歩く跫音、襖のあく音、女達の話し声などが聞えて来た。

女達の言葉から察して、芳一はそれが高貴な家の召使である事を知った。

大広間に通され大勢の息が聞こえてくる

生ぬるい風が芳一の頬をなでた

女の声が芳一に向ってこう言った――

 『琵琶に合わせて、平家の物語を語っていただきたいという御所望に御座います』

  芳一はこう訊ねた――

 『物語のどこを御所望で御座いますか?』

  女の声は答えた――

 『壇ノ浦の戦(いくさ)の話を』

芳一は声を張り上げ、烈しい海戦の歌をうたった


はッしと飛ぶ矢の音、人々の叫ぶ声、足踏みの音、兜にあたる刃の響き。

ビーン ビーン ビーン ビーン

婦人と子供との哀れな最期

両腕に子供を抱きかかえ海へ命の落ちるところ

聞くものは苦悶の声をあげ、しばらくの間はむせび悲しむ声が続いた。


そして沈黙のあと


『これから六日の間

毎晩一度ずつ、殿様の御前(ごぜん)で琵琶を。

毎晩同じ時刻に、あの家来を迎えにいかせます。

ひとつ

このことはけして人に言わぬよう』

芳一の戻ったのは夜明けであったが、

その寺をあけた事には、誰れも気が付かなかった――


翌日の夜中に侍がまた芳一を迎えに来て、

かの高貴の集りに連れて行かれ、そこで芳一はまた謳う。


ビーン ビーン ビーン


行く晩か過ぎると寺の者たちの知るところとなり

芳一は住職に呼びつけられた。

住職は言葉やわらかに叱るような調子でこう言った、――

 『芳一、あんなに遅くどこへ』

芳一は約束があるので黙っていた。

住職は心配したがそれ以上何も訊ねず、ひそかに寺の者たちを芳一の見張りにつけた。


その晩、芳一が寺を脱け出して行くのを見たので、寺の者は提灯をともし、そのあとをつけた。

ザザザザザ

その晩は雨であった。

道は暗く、狭く



はやく はやく

どこかへいきたいのか

なきながらいく


せまく くらく

なれないところなのか

なきながらいく


なきがら

なぜて

なきながらいく


寺の者たちは、芳一を見失った。

探し回ると、阿彌陀寺の海岸の墓地の中に、琵琶の音が聞える。

音のする方にいくと

そこで墓の前に独り坐って、琵琶をならし、壇ノ浦の合戦の曲を高く謡う芳一をみた。

その背後(うしろ)と周囲(まわり)と、それから到る処、無数の墓の上に鬼火が見えた……

寺の者は声をかけた

『芳一さん!――芳一さん!』

しかし芳一には聞えない。

寺の者は芳一をつかまえ――耳に口をつけて声をかけた――

 『芳一さん!――芳一さん!』

一同は芳一を捕(つかま)え、力まかせに寺へつれ帰えり、住職に事の次第を話した。


問い詰められ、芳一は長い間それを語ることを躊躇していたが、

ようやく

最初、侍の来た時以来、あった事をいっさいを話した。

 『芳一、お前の身は今、大変に危うい。

もしこれまであった事の上に、

またも、その云う事を聴いたなら、お前はその人達に八つ裂きにされる事だろう。

今夜、私は行事をするように呼ばれ、

お前と一緒にいるわけにいかぬが、前の身体を護るために、その身体に経文を書いて行く』


住職は芳一を裸にし、筆で芳一の、

胸、背中、頭、顔、頸、手足――身体中どこと云わず、足の裏にさえも――

お経の文句を書きつけた。


『今夜、私が出て行ったらすぐに、お前は縁側に坐って、待っていなさい。

すると迎えが来る。が、どんな事があっても、返事をしたり、動いてはならぬ。

口を利かず静かに坐っていなさい――少しでも声を立てたりすると、お前は切り刻まれる』


日が暮れ、芳一は言いつけられた通り縁側にじっと座る。

咳もせず、聞えるようには息もせずに。


ジャ ジャ ジャ ジャリ ジャリ

『芳一!』

『芳一!』

『芳一!!』


芳一は石のように静かにしていた。

縁側に上る重もくるしい足音がした。

足はしずしずと近寄って――

芳一の傍に止った。


『ここに琵琶がある、だが、芳一は―

ただその耳が二つ、あるばかりだ!……

道理で返事をしないはずだ、返事をする口がないのだ

身体は何も残っていない……

よし殿様へこの耳を持って行こう――

出来る限り殿様の仰せられた通りにした証拠に……』


ヒヤリヒヤリ

 芳一は鉄のような指で両耳を掴まれた。


羽がもげる

髪がもげる

肉がもげる

陰がもげる

求めるがゆえ

耳がもげる

もげるがもげて

闇が漂う



痛さは非常であったが、芳一は声をあげなかった。

芳一は頭の両側から濃い温いものの滴って来るのを感じた。


日の出前に住職は帰って来た。急いで縁側へ行くと、

何んだかねばねばしたものを踏みつけて滑り、そして慄然(ぞっ)として声をあげた――

それは提灯の光りで、そのねばねばしたものが血であった事を見たからである。

芳一はだまってそこに坐っているのを住職はみた――

傷からはなお血をだらだら流して。


『おお、可哀そうに、可哀そうに芳一!』

と住職は叫んだ――

『みな私の手落ちだ!――酷い私の手落ちだ!……

お前の身体中くまなく経文を書いたに――耳だけが残っていた』


医者の助けで、芳一の怪我はほどなく治った。

この不思議な事件の話は諸方に広がり、

この男は耳無芳一という呼び名ばかりで知られていた。





底本 「耳なし芳一」 小泉八雲

2013年7月13日土曜日

自然の社にて vol.2

2013年7月7日
TWS渋谷朗読音源

共演
ギター  坂ノ下典正
シタール 田中悠宇吾


 

2013年7月11日木曜日

雨の女

表情の変わらぬ
その顔の奥に
いったいどれほどの
繊細な糸がつまっているのだ

色合いの変わらぬ
その服の奥に
いったいどれほどの
鋭利なとげを隠しているのだ

薔薇のようなその唇が動くたび
風向きや湿度を変える
まるで聖書に記されている 言葉
雲ように立ち上っていく

そして街に雨を降らせる
そして僕に雨を降らせる
街は渇きを潤し
僕は孕んでいく


2013年7月10日水曜日

都会では



私も相手も気がつかず
すれ違う

私は気がついて
相手は気がつかず
すれ違う

私は気がつかず
相手は気がついて
すれ違う

私も相手も気がついて
気がつかないふりをして
すれ違う

2013年7月1日月曜日

推敲中

沈黙を塗りつめて
無限のふちを描き
定点を探す
その意味を混ぜあわせながら
砥いだ刃で刺してゆく

楽屋では出番を待つ女優の顔を
白色電燈の揺らめきが照らす
幾重にも重ねられた音の重さの中で
息を殺した魂たちが
聞こえてくる亡霊の夢に
身を寄せ、言葉たちが焦げていく


どこから漂うのか・・・
どこから漂うのか・・・

自由律

窓枠の奥の水平線に白い踊り手が舞う

桟橋でサンダルをぬぎすてて爺様たちがくっちゃべる

街がひとつのアトリエ立ち止まれば青春


穂はみのるそして拾われる


海の街

海の街で美しい女と出会う
花を着ている女は
対岸の島を眺めている
積み重ねられた隙間に
まなざしが入り込んで
忘れられた言葉に
新しい色をつけている


娘と広島市民球場

娘はまず父と広島市民球場に行く
娘はクラスメイトと広島市民球場に行く
娘は恋人と広島市民球場に行く
娘は夫と広島市民球場に行く
娘は夫と子供が広島市民球場に行くのを見送り
ドラマを見る
娘は野球のルールがよくわからない
娘は広島東洋カープのユニフォームを着てねむる



物語

昔々あるところに
燃えさかるホウキを振り回して暴れる鬼がおりました。
種をいくら蒔いたとしても収穫の時期になると
すべてそのホウキの炎で焼き払われ
村の者たちはたいそう困っておりました。
今年こそは鬼が現れないようにと 
祭りのたび太鼓を叩いて舞を踊りました。
ある者は7晩も村の外に立ち続けたのでした。
それでも鬼の所業はおさまりません。
村の者たちはその鬼が現れる原因についてこう噂していたのです。
あれは王妃争いに負けた別の物語の娘のなれのはてなのだと。
あるとき一人の若者が訪ねてきて老婆に言いました。
もういちどその場面を再現してみましょう。
負けてしまうのではなくて、
うまくいくように話の筋立てを変えて見せてやるのです。
わらにもすがる思いだった村人たちはその物語を再現することにしました。
王子役、娘役、そしてしあわせをうらやむ村人役
その場面の絵を描き、ひとりの男に物語を朗読させました。
王妃争いに負ける場面、
王子が求婚を申し込む場面にきました。
本当は娘は退屈な王子の愛のセリフに
思わず空をみあげてあくびをしたのですが
物語の上では星空の美しさに見とれる場面としました。
するとどうでしょう、
鬼は燃えさかるほうきを
赤い団扇に持ちかえると、一振り。
村をもとの姿に戻しました。
そして再び村で暴れることをしなくなりました。
村人たちは安心して畑に種を蒔いています。
娘は別の物語の中でガラスの靴を履いてしあわせに暮らしましたとさ。


おしまい

2013年6月30日日曜日

STAGE

動く人々と
見る人々と
その距離の中で
掘り返される
過去あるいは未来

優しい言葉が
届くのではなく
それぞれの記憶のなかで
掘り返される
黄色あるいはレッド・グリーン・・・

繰り返される
STAGEで
風はふき 猫がなき
虫は舞い 窓がゆれる

影が夜と昼の果てを
乗り越える時
観客はすでに別の
STAGEへ
まぎれ込んでいる

流れゆく海流の
その飛沫が空を映して
みつめているように
動くことの出来ない空もまた
その飛沫を包もうとしている

互いに憧れ
その親しみをささやくように

2013年6月28日金曜日

おのみちフルーツポンチ

君にとろけてメロン
はじらいみかん
ももももももも
トロピカルジュースはさんで
君とキラリン

いつだって初恋チェリー
はじけてパイン
ももももももも
トロピカルジュースはさんで
君とランデブー

おのみちフルーツぽぽぽぽポンチ

ももももももも
トロピカルジュース
ももももももも
トロピカルジュース
はさんで君とランデブー

2013年6月27日木曜日

呉線

車窓に広がる白壁の照り返しが
少女の肌を一層白く染めている

2013年6月19日水曜日

嵐の前

嵐の前の風のにおい。
木々がざわめいて。
生ぬるい空気がつつむ。
思春期に似て。

2013年6月16日日曜日

清澄白河庭園
『池ぽちゃ防止』の題
で一句


池ぽちゃで
亀と一緒に
甲羅干し

2013年6月14日金曜日

夏なのにね

どうしたって
青い色の空のした
キープしぎみの 君に
会いたいでしょ
ちょうど
雨なんか降って来たし
夏なのにね
ドレミファソラシ
どうしたって...

どうしたって
青い色の空のした
泣いていた君に
会いたいでしょ
ちょうど雨なんか
降って来たし
夏なのにね
ドレミファソラシ
どうしたって...
どうしたって...


詩:黒川武彦
曲:ヒロナリ

2013年6月8日土曜日

今夜どれだけの美しいものが

今夜どれだけの美しいものが
この世界に溢れているのだろう
だが私の目に映るものは
すべてがくすみ精彩を欠いている
それは私が見てしまったから
この世に現れる美しいものの頂き
流れる風、薫り、景色
そのなかに包まれてしまったから
それはすでに過ぎ去ってしまった
だからこそ美しく想い出される
ああ、君よ 許してくれ
程遠い言葉で 君を詩うのを
ああ、君よ 許してくれ
程遠い言葉で 君を閉じ込めるのを

2013年6月7日金曜日

魂によせ

手をひるがえしながら空を見上げるとき
はためく思いに紛れて雲が通り過ぎた
石柱の傍らで出会う
見知らぬ老女に名のあるように
響き続ける鐘の音の終わらぬうちに
気配は気がつかぬところで
より快適な世界へと変容し続けている
つながれて ながれている ものものたちが
音より 光より はやく
かつて傷つき泣き疲れ眠る夜に
一輪の花を手にして森の小道を歩き
ぜぜらぎの勧めるまま
景色の中で風と共に舞い始め
君の存在に感謝と祝福を捧げはじめる

2013年6月4日火曜日

グラス

並んだふたつのグラス
底にわずかに琥珀が光る
ひとつはやがて片づけられ
もうひとつには新たな時が注がれた

2013年6月3日月曜日

自然の社にて(じねんのやしろにて)


これは途中の話
誰かが気にして
誰かが通り過ぎて
誰かが親しんで生まれた社の途中の話

再び誰かが通り過ぎ
再び誰かが親しむならば
再び生まれる社の途中の話

風の中に通り過ぎた
蛙の声の中に通り過ぎた
東北地方に春の日数日だけ吹くという風「やませ」の中で
僕らは少し話して
こうして少し話している
途中でかけた社の話を



それは
ちちちち
小さな花

組み上げられた社に
幾千、幾万の 

てててて
て 

ゆゆゆゆ


だだだだ
雨だ



どちらがさきか
かえるのこえか
ほしのこえ 

どちらがさきか
ほしのゆらぎ
かぜのゆくえ

どちらがさきか
そらのざわめき
とちのいのり

どちらがさきか
ひとのいとなみ
ひとのはじまり
はなのはじまり
ときのはじまり

どちらがさきか
かえるのなきごえ
ひとのうぶごえ



青いそらに緑が手を広げて伸びる
星をつかもうと
どこまでもどこまでも
手を広げて伸びていく

彼は
いのるように撮影しています

彼は
いのるように時間をつかんでいます

だれかがあるいた
だれもがあるいた
だれかとあるいた

参道

大切なところを知っていること
大切なところを持っていること

どこですかあなたの社は
みんな知っているでしょう
あるのを知っているでしょう

僕らはたたずんで
僕らはそれぞれのやり方で親しんだ

だれかがあるいた
だれもがあるいた
だれかとあるいた 

参道 



「相馬盆唄」詞・曲:作者不詳

ハアアーアイョー 今年ゃ豊年だよ
穂に穂が咲いてよヨー
ハアアー 道の小草にも
ヤレサナ 米がなるヨ

ハアアーアイョー 道の小草に
米がなるときはヨー
ハアアー 山の木萱に
ヤレサナ 米がなるヨ

ハアアーアイョー 揃った揃ったよ
踊り子が揃ったヨー
ハアアー 稲の出穂より
ヤレサナ よく揃ったヨ 

ハアアーアイョー 踊り踊るなら
三十が盛りヨー
ハアアー 三十越えれば
ヤレサナ 子が踊るよヨ

ハアアーアイョー 踊り輪になる
八重の輪が出来たヨー
ハアアー 踊り廻れよ
ヤレサナ 夜明けまでヨ



いつくるかわからない
春の土の薫りの中に
潮の風の薫りの中に
まぎれているものがある 

汗の臭いや足の裏の臭いが
愛おしくなるほど
人の心のつくりだした
無臭がまぎれている

行く先表示のないバスが
Jビレッジから出ていく
夕暮れの中最前線へ
僕の知らない名前のある人たちの乗せて
Jビレッジから出ていく

汚れた土が削りだされ
土嚢の山が築かれていく 

誰もいなくなった街に土嚢があふれ
土嚢の街が築かれていく

何ものも触れられない土嚢がとどまり
土嚢の社が築かれていく 



静かなところ

空き地だったところは
虫けらをのみこんで
工場になりました

工場だったところは
貧乏人をのみこんで
パチンコ屋になりました

パチンコ屋だったところは
働かなかった人をのみこんで
宗教施設になりました

宗教施設だったところは
争う人をのみこんで
基地になりました

基地だったところは
すべての人をのみこんで
墓地になりました

墓地だったところは
季節をのみこんで
空き地になりました

人はいません
静かなところです



しずる夜に訪ねてくる
通過したわずかなさざなみ
張り詰めた旋律に
フクロウの詩がこだまする

田園の案山子が
敷き詰められた星々を見上げ
風車が明日の風を受けて
金色の小麦をひいている

灯る火はゆらめきの狭間に
遠くから届いた長い手紙を映す
人々は開封された懐かしい器に
天からの光を注ぎ飲み干す

無言のままはぐれた影たちを
見つけようとするかのように

息が聞こえる

息が聞こえる
沈黙がある
息が聞こえる
静寂がある
息が聞こえる

残された社には風の音しか聞こえない



どこから届いているのでしょう
どこから響いているのでしょう
どこから流れてくるのでしょう

どこまで届いていくのでしょう
どこまで響いていくのでしょう
どこまで流れていくのでしょう

私たちは落ちたひとしずく
私たちは生えたひとしずく
私たちは浮かんだひとしずく

そこへここへと溶け込むひとしずく

10

思うにままならないことを 
思い煩い時間ばかりが過ぎてゆく 

お酒を飲んで、散歩して、本を読んで、映画観て
仕事して、誰かと話してても舞い降りる
忘れてしまえばいいのにと言われても
感じた気持ちさえ捨ててしまうようで

月日がたてば姿が変わって
うまく扱えるようになるのでしょうか
風のない静かな晩には
やわらかな歌が聞きたくなる

戻りたいとも忘れたいとも思わない
風のない静かな晩には
やわらかな声が聞きたくなる

やわらかなあなたの声が聞きたくなる

11

これは途中の話
誰かが気にして
誰かが通り過ぎて
誰かが親しんで生まれた社の途中の話

再び誰かが通り過ぎ
再び誰かが親しむならば
再び生まれる社の途中の話

風の中に通り過ぎた
蛙の声の中に通り過ぎた
東北地方に春の日数日だけ吹くという風「やませ」の中で

僕らは少し話して
こうして少し話している
途中でかけた社の話を

2013年5月23日木曜日

初夏

草原に風がたずねて
麦わら帽子が揺れる
郵便配達の自転車が
河面に流れて
夕暮れの雲に
燕が影を落として
天の川が覗く頃
祭りの焚き火が
行きかう娘らの頬を火照らす


2013年5月18日土曜日

ゴドーを待ちながら、ゴドーは行く

笑い声が遠くで聞こえる
姿が見えないとき声は大きく
姿を見ると近いはずなのに何も聞こえない
現れた言葉の意味が本当なのかは知らない
でも現れたことは真実で
音も響きもどこかへ行ってしまったけれど
意味がほんとうであことを確かめるために
誰もがそうしているように私は待つ
そして意味がほんとうであるために
誰もがそうしているように私は行く

2013年5月17日金曜日

ひとしずく

どこから届いているのでしょう
どこから響いているのでしょう
どこから流れてくるのでしょう

どこまで届いていくのでしょう
どこまで響いていくのでしょう
どこまで流れていくのでしょう

私たちは落ちたひとしずく
私たちは生えたひとしずく
私たちは浮かんだひとしずく

そこへここへと溶け込むひとしずく



街かどで詩を売る

街がどで詩を売る
人々が通り過ぎる
見ることもしない
買うこともしない
人々が通り過ぎる
そして詩が読まれている

花は咲いている

花は咲いている
動くことは出来ないけれど
その本性に導かれ
花は咲いている
白 赤 黄色 紫 橙 緑
自分を見ることは出来ないけれど
花はただ咲いている
そして枯れて還っていく

息が聞こえる

息が聞こえる
沈黙がある
息が聞こえる
静寂がある
息が聞こえる

2013年5月16日木曜日

柔らかな肌は

柔らかな肌は
どこまでも優しい磁石のように
触れられることを拒んで
首筋の長い影に隠して
明け方の寝息に吸い込まれた

しとりとしたあなたの汗だけが
いまでもこの部屋に漂い
泣き出そうなくらい
遠い街の花園で目覚める私に
触れてくる

2013年5月6日月曜日

命よりて



生命が関わり産声は生まれ

大気を吸い込み混沌を彩る

新しいビートを

すませて

世界が聴き始めている

中央線

胸をみたしたぬくみ
中央線が運んでいく




2013年5月2日木曜日

アイアンメイデン

人を信じたいのだけど
信じる事ができない自分がいて
その訳は自分が今まで受け取ったものをすっかり忘れて
気持ちよくいたいからなのだ
そういった気持ちを鏡に映して
まんじりとみやると
清廉という名のアイアンメイデンに覆われるのを感じる

私は静かに狂いたい

2013年4月30日火曜日

ノマド

草の生えるときを知り

星のしるべをたよりに

地平線をゆく



家系を引き継ぎ

羊と山羊を引き連れて

馬と犬と群れてゆく



夕闇迫り

影の伸びた仮宿に

哀愁の馬頭琴



明日の薫りを待ちながら

白濁の酒あおり

糧をほうばる



日々が満ちて

謳いあげた躯が

悠久の中に発酵し



TUCHITONARI KUSATONARI HANATONARU

(土となり 草となり 花となる)

SORATONARI KAZETONARI HOSHITONARU

(空となり 風となり 星となる)

MICHITONARI SHIRUSHITONARI TOKITONARU

(道となり 印となり 時となる)

2013年4月28日日曜日

喫茶情景

張りつめた心の内が 肌にあらわれ ハリネズミ
行きずりの男と女が 揺さぶられた 由比ヶ浜
空っぽのカップに 影が伸びて  風車
ためらいの下唇に 立てかけたままの たらこスバ

2013年4月25日木曜日

降り注ぐ闇を待つ

恋人のいない季節が
切れかけたインクリボンのように灰色
刻まれた哀しみは鮮明に浮かび
二度と帰ることのない鮭の群れ
真昼を過ぎて沈みかけた太陽に
這い出してくる記号を投げつけて
降り注ぐ闇を待つ

2013年4月24日水曜日

手まねき

遠い街が手まねきしている
光と影で化粧した女の
後ろ姿を面影にたくして
道しるべを探すツバメが
空の果てから舞い降りては
海の五線譜を奏でながら
坂と谷とを越えて
遠い街が手まねきしている

2013年4月11日木曜日

2013年4月4日木曜日

幕間

三人娘のお喋りする
黄色い舞台の幕間に
狸は踊り狼は狙う
白塗りの画廊に飾られた
風景画家と抜け出したのは
川沿い葉桜の舞う
春と夏の幕間の季節

2013年4月1日月曜日

さよならさくら

去年はどうしていただろう
来年はどうしているのだろう
散りゆく桜おしみながら
今年もまた春に別れる

さよならさくら
なくならなおさら
なくならへんよ
さらんへよ

雪が降る 柔らかに雪が降る 昼も夜もこの街に 雪が降る 足跡が道についている 誰かが歩いた跡 私も歩く 雪の中を 優しい雪の中を