2014年4月28日月曜日

幻聴

永遠に記すことの出来る紙の上に
蝶が舞い降りてきて私を描けとせがむ
紫色の羽の中に赤い斑点
鱗粉の落ちる速度で海が開いてゆく
しぶきが水平線を隠して
呼吸の出来ない深海へと誘う
闇の岩場でしゃがみ込んだあなたが
こちらを見つめている
私は息をすることが出来ない
あなたの纏うカーテンが
境界線を作り上げて
その揺らぎがいつしか私を陸へと押しもどす
打ち上げられた水晶の砂浜に
ヒトデたちが眠っている
音も立てず太陽を吸い込んでは
新しい景色を吹き出してゆく
いつだったか信号待ちの瞬間に
白い綿毛を捕まえた
それは死にゆくものたちが残した貝殻
私は耳をあてて
それらのつぶやきを聴いた


2014年4月22日火曜日

まぼろし

空の果てを探して見上げた蜃気楼に
虹のこぼした水滴が流れて
つぶやかれたはずの言葉の足跡
雲の揺らす記憶の草原
漕ぎ出された二層ボートのきしみ
十字架のまなざしを受け止める月
バベルの窓から見下ろす町並みは
鳥すらも恐れて踏み込まぬ聖域
待っているものは巡る朝日のぬくみ
ひまわり畑の真ん中で少女が
空を指さしている
旗がゆれて
流星がはじけた
まどろみのなかでぼんやりと
触れることの出来る
幻をみた

2014年4月21日月曜日

戦争しよっか

ねえ、最近どうしてる?
そいうえばさ、今月誕生日だったよね
こっちの仕事もひと段落したし
どうかな、今週末いつものところで
戦争しよっか

付き合ってそろそろ3年になるね
お互いの両親も気にし始めてるし
あまり無駄使いしないで貯金も出来てきたし
どうかな、そろそろ僕ら
戦争しよっか

2014年4月17日木曜日

二つの山

朱い山と
蒼い山の
はざまに
静寂が芽吹く

白い恐れを
黒い雨が
包みこんで
立ち上がる

虹色の山々を
鳥や風は
悠然とその身に映して
星々に消える

望まれた山だけが
畏怖の中に震えている

2014年4月15日火曜日

北の桜

桜が咲いていたのは知っていたけれど
君を思い出して泣きそうだったから
出歩かずにうつむいて歩いた
それでも窓を開けると花びらが吹き込んで
甘えるみたいに舞っているんだ

まだ追いつけますか、せめて桜を
また君の来るのを待てますか、せめて春を

君と見た景色を追って北へ北へ
桜を追って北へ北へ

通り過ぎた歩道に桜雪

いつか見た景色を追って北へ
春を追って北へ北へ

積もる花びらばかりが桜色



2014年4月11日金曜日

死神

先日死神に会って危うく死にそうになったが
菩薩の加護によってなんとか生き延びた
死神の詩を書いたのだが紛失した
出てこなくてもかなわないが余計な詩を書いた

情景(下)

何も残したくないといった友人がいた
カメラを向けると嫌がるのだ
写真には映らなかったが
私はその友人を忘れない

何も残さなかったものが
置いていったものに憧れて
街は拡声器で喋り続けている

誰にも会いたくないと思うとき
私は会えないものに憧れている

ゆうぐれ

くちびるがぬれて
きみのいきのにおいがする
ふさいで
わたしをそそいでしまえば
どんなゆうぐれが
おとずれたというのか

夜光虫

鉛筆が尽きるまでに
どれだけ詩が書ける

この紙が尽きるまでに
どれだけ詩が書ける

この命が尽きるまでに
どれだけ詩が書ける

巡り、与えられた
命、紙、鉛筆

ひたすらにつづる以外に
何をするというのだろう

生涯をかけてやることが
なんなのかを問い続けて
みつけた一筋の糸

たぐりよせてその果てを
見ようとする

今地球の裏側は夜
今私のいるところは朝

誰に向けているのでもない
ただつづる

その先に海辺の香り
その先にレンガの町並み
その先に走り回った校舎の記憶

飲み干したコーヒカップに
夜光虫が浮いている


言葉の音

今日は釈迦の生まれた日
悟りを開いて歩き回り
森の菩提樹の元で涅槃にはいった

彼は何を伝えた
彼は何を残した

2千年もあとになって
私が思いを馳せること
彼は知るはずもない
私も誰か知らないものに
思いを馳せられることがあるだろうか

私はあなたにいう
こんにちは
私はあなたにいう
元気ですか

今年のことを少し話しましょう
今年の春は雨が多くて
桜の散るのが早かったです

消費税という生きていることに対する
義務が増えました

そちらはどうですか
詩なんか書いていられますか

もう 文字などというものは
いらないのかもしれませんね

でも いいものですよ
紙の上を走る言葉の音というのはー

ひとつの詩

1日に100も詩がいるかい?
1日に10も詩がいるかい?
1日に1つ詩がいるかい?
1年に1つ詩がいるかい?
10年に1つ詩がいるかい?
一生に1つ詩がいるかい?
始まりと終わりの間に詩がいるかい?

切り抜かなくても包まれている
ひとつの詩に

2014年4月10日木曜日

どこへいった

夕焼けと引き換えに
町にはビルが建ち
星空と引き換えに
夜の盛り場が出来る

どこへいった あの夕焼けは
どこへいった あの星空は

愛と引き換えに
金を手にして
しあわせと引き換えに
幻が増えてゆく

どこへいった あの愛は
どこへいった あのしあわせは

どこへいった
僕と引き換えに僕は

どこへいった
どこへいった・・・


2014年4月7日月曜日

お品書き

ごぼうと菜の花のおひたし
赤貝、ミル貝、平貝、刺し
マテ貝焼きの酒盗乗せ
ホタテのバター醤油焼き
サザエのつぼ焼き
卵焼き
カキフライ
白貝酒蒸し
ホタテと貝類の炊き込みご飯

2014年4月4日金曜日

タブロイドの夢

タブロイドの夢に預けられた
硬質インクの雨
焚き火の中で晒しあう
小人の群れが寝静まる
ふかし不可思議
ちぼちぼちぼちぼ
七色の帳(とばり)みたらし団子
尾ひれ求めて大西洋
内科ディスタンス
むさしのアレクサンダー


ドーナツ屋の娘

いつも気にしてふりかえる
ドーナツあげてる君みつけて
今日は一日晴れ
君を見つけて
輪っかのむこう
今日は一日晴れ

桃子

どこいるん
ここいるん
酒、飲どるよ
どこで飲んでるん

どこいくの
どこいきたいいん
お酒あるとこ
桃子おるとこ

じゃーきるよ
またね

どこいきたいん
お酒あるとこ
桃子おるとこ



遠く逃れて

キレイな詩ばかりはうたえない
キレイなことばかりで成り立っていないから

陽気な詩ばかりはうたえない
陽気なことばかりで成り立っていないから

生きていることすら煩わしく思える夜
私は遠くへ行きたい
煩うことすら忘れるくらい
私は私から遠くへ逃れて

雪が降る 柔らかに雪が降る 昼も夜もこの街に 雪が降る 足跡が道についている 誰かが歩いた跡 私も歩く 雪の中を 優しい雪の中を