2013年6月3日月曜日

自然の社にて(じねんのやしろにて)


これは途中の話
誰かが気にして
誰かが通り過ぎて
誰かが親しんで生まれた社の途中の話

再び誰かが通り過ぎ
再び誰かが親しむならば
再び生まれる社の途中の話

風の中に通り過ぎた
蛙の声の中に通り過ぎた
東北地方に春の日数日だけ吹くという風「やませ」の中で
僕らは少し話して
こうして少し話している
途中でかけた社の話を



それは
ちちちち
小さな花

組み上げられた社に
幾千、幾万の 

てててて
て 

ゆゆゆゆ


だだだだ
雨だ



どちらがさきか
かえるのこえか
ほしのこえ 

どちらがさきか
ほしのゆらぎ
かぜのゆくえ

どちらがさきか
そらのざわめき
とちのいのり

どちらがさきか
ひとのいとなみ
ひとのはじまり
はなのはじまり
ときのはじまり

どちらがさきか
かえるのなきごえ
ひとのうぶごえ



青いそらに緑が手を広げて伸びる
星をつかもうと
どこまでもどこまでも
手を広げて伸びていく

彼は
いのるように撮影しています

彼は
いのるように時間をつかんでいます

だれかがあるいた
だれもがあるいた
だれかとあるいた

参道

大切なところを知っていること
大切なところを持っていること

どこですかあなたの社は
みんな知っているでしょう
あるのを知っているでしょう

僕らはたたずんで
僕らはそれぞれのやり方で親しんだ

だれかがあるいた
だれもがあるいた
だれかとあるいた 

参道 



「相馬盆唄」詞・曲:作者不詳

ハアアーアイョー 今年ゃ豊年だよ
穂に穂が咲いてよヨー
ハアアー 道の小草にも
ヤレサナ 米がなるヨ

ハアアーアイョー 道の小草に
米がなるときはヨー
ハアアー 山の木萱に
ヤレサナ 米がなるヨ

ハアアーアイョー 揃った揃ったよ
踊り子が揃ったヨー
ハアアー 稲の出穂より
ヤレサナ よく揃ったヨ 

ハアアーアイョー 踊り踊るなら
三十が盛りヨー
ハアアー 三十越えれば
ヤレサナ 子が踊るよヨ

ハアアーアイョー 踊り輪になる
八重の輪が出来たヨー
ハアアー 踊り廻れよ
ヤレサナ 夜明けまでヨ



いつくるかわからない
春の土の薫りの中に
潮の風の薫りの中に
まぎれているものがある 

汗の臭いや足の裏の臭いが
愛おしくなるほど
人の心のつくりだした
無臭がまぎれている

行く先表示のないバスが
Jビレッジから出ていく
夕暮れの中最前線へ
僕の知らない名前のある人たちの乗せて
Jビレッジから出ていく

汚れた土が削りだされ
土嚢の山が築かれていく 

誰もいなくなった街に土嚢があふれ
土嚢の街が築かれていく

何ものも触れられない土嚢がとどまり
土嚢の社が築かれていく 



静かなところ

空き地だったところは
虫けらをのみこんで
工場になりました

工場だったところは
貧乏人をのみこんで
パチンコ屋になりました

パチンコ屋だったところは
働かなかった人をのみこんで
宗教施設になりました

宗教施設だったところは
争う人をのみこんで
基地になりました

基地だったところは
すべての人をのみこんで
墓地になりました

墓地だったところは
季節をのみこんで
空き地になりました

人はいません
静かなところです



しずる夜に訪ねてくる
通過したわずかなさざなみ
張り詰めた旋律に
フクロウの詩がこだまする

田園の案山子が
敷き詰められた星々を見上げ
風車が明日の風を受けて
金色の小麦をひいている

灯る火はゆらめきの狭間に
遠くから届いた長い手紙を映す
人々は開封された懐かしい器に
天からの光を注ぎ飲み干す

無言のままはぐれた影たちを
見つけようとするかのように

息が聞こえる

息が聞こえる
沈黙がある
息が聞こえる
静寂がある
息が聞こえる

残された社には風の音しか聞こえない



どこから届いているのでしょう
どこから響いているのでしょう
どこから流れてくるのでしょう

どこまで届いていくのでしょう
どこまで響いていくのでしょう
どこまで流れていくのでしょう

私たちは落ちたひとしずく
私たちは生えたひとしずく
私たちは浮かんだひとしずく

そこへここへと溶け込むひとしずく

10

思うにままならないことを 
思い煩い時間ばかりが過ぎてゆく 

お酒を飲んで、散歩して、本を読んで、映画観て
仕事して、誰かと話してても舞い降りる
忘れてしまえばいいのにと言われても
感じた気持ちさえ捨ててしまうようで

月日がたてば姿が変わって
うまく扱えるようになるのでしょうか
風のない静かな晩には
やわらかな歌が聞きたくなる

戻りたいとも忘れたいとも思わない
風のない静かな晩には
やわらかな声が聞きたくなる

やわらかなあなたの声が聞きたくなる

11

これは途中の話
誰かが気にして
誰かが通り過ぎて
誰かが親しんで生まれた社の途中の話

再び誰かが通り過ぎ
再び誰かが親しむならば
再び生まれる社の途中の話

風の中に通り過ぎた
蛙の声の中に通り過ぎた
東北地方に春の日数日だけ吹くという風「やませ」の中で

僕らは少し話して
こうして少し話している
途中でかけた社の話を

0 件のコメント:

季節が来て 人ははなれて 風が吹く 冷たい手のひらで 去っていく 金魚 煙であればいい 背徳の館に 君の影が さす