2020年7月30日木曜日

7月のソネット

七月の頂きに新しき景色
傍にささやかな花の微笑み
昼に育まれる光の雨
なじんだ場所に別れを告げて
押しだされ導かれ歩みゆく
思い出の中でならば美は永遠
心に寄り添う雲雀の唄聲
清涼な風のしめす方角
森に偉大なる虫の営み
夜に慰める静寂の海
辿れば見えるものは見えざる美へ
辿れば見ざるものは見える美へ
時の環を抜けて美となるのだ
思い出さねばならぬ時は来た

2020年7月16日木曜日

電灯を消して天井がわずかに見えるかなな夜に


電灯を消して天井がわずかに見えるかなな夜に
だんだんと夜が明けてくるのを待つのです

温もりから窓を開けますと
物干しざおにかかかる 空っぽの洗濯ばさみに
陽光がほされて足をぶらぶらしてるんです

石鹸とビオラがつつきあって露をはねる
冷蔵庫の中で昼寝する茄子と大根をひっぱりだして味噌で煮る
吹きかえる湯気にシンドバットの蜃気楼
オアシスに浮かぶ花びらを手のひらですくうんです

いつだって日々を閉じ込めて薫りがする
そう、哀しい記憶ほどいい薫りがする
だからもう泣かないでください それでよかったのですから
アパートの白壁がね ギリシアのミコノス島みたいに見えるんです

いつだって少したってから青春は訪ねてくる

2020年7月15日水曜日

浜辺

弥勒菩薩の悩みが砕けて砂になる
夏雲が笑って立ちのぼるんです
それを指でたどって遊ぶんです
打ち寄せる波はいつか誰かの忘れたい言葉
僕たちは飽きるまで眺めるんです
僕たちは暮れるまで浮かぶんです

2020年7月8日水曜日

光景

部屋の中に列車の音が響く
私の知らない無数の人が
どこからか来てどこからかへ行く
部屋の中で煙草の煙が立つ
ドアからの風がそれを消し去って行く
ここへ光がさしてまたどこからかへ行く
私もまたどこからかへ
青空に溶けながら

夜明け

夜明け
空はむらさき
あなたはわたし
わたしはあなた
雲について何か語ろうとした
柔らかい筆先のような雲について

2020年7月4日土曜日

沈黙

時間は私の知らぬところで流れ
私の知るところは眼前の一輪の花
瞬く間に散りゆく一輪の花
私の知らぬところは変容し続けて
ひたすらの流れの前に私は沈黙している

季節が来て 人ははなれて 風が吹く 冷たい手のひらで 去っていく 金魚 煙であればいい 背徳の館に 君の影が さす