2021年12月9日木曜日

 周回軌道の外側に

一羽のカナリアが

色彩の川を越えていく

ゆらめきながら

離れていく命の灯を彼らは今日も見つける

優しいコルネットの音を

思い出しながら

僕は君の手に触れた


2021年9月8日水曜日

部屋の窓から

 今日も列車がいく

座るひと、立つひと、眠るひと、景色眺めるひと

ゆられて

帰るひと、行くひと、過ごすひと、どこに行くか分からないひと

どうやって動いている?

誰が作った?

どうしてあるの?

喜ぶひとはいる?

幸せになったひとはいる?

かなしみもある?

音が聞こえる

声の聞こえる

時のあること

ただあること

2021年9月1日水曜日

街の音が聞こえて目が覚める
こうして朝を迎えること
日々世界と出会っていくこと 
それは手向けであり応答 
生者の祝いの声に 
温もりを覚えた

2021年8月28日土曜日

へたくそ

 へたくそ

生きるのから

料理から

芝居から

写真から

全部へたくそ

何かの



2021年8月20日金曜日

哀しみは夏に押し寄せて
蝉はもがいて地に溶ける
思い出を手繰り寄せ
揺れるカーテンの向こうを
カラスが通り過ぎて鳴く
明るすぎる空ばかりが
ただ変わらず悲劇の終わりを見届ける

2021年8月6日金曜日

バッテリー

 満タン

切れました

充電

満タン

切れました

充電

満タン

満タン

満タン・・・

切れました

充電

充電

充電・・・あれ

2021年7月29日木曜日

 どれだけの風が吹いて許されるのか

どれだけ遠くの街で忘れることができるのか

私は私を


愛という言葉とそのあわいのこと

君は知っている?

私は君と

私は君と


あぁ、どこか永遠の光の集まるところで

触れ合えたなら

肌と

目と

存在と

2021年7月28日水曜日

差しかかった夕暮れの街に

明日の香りがふきこんでくる

壊れかけの自転車を押して坂を上がる

峠の広場から放り投げた昨日を

空が受け止めた

2020,11.15

2021年6月29日火曜日

混沌

雨が降り通り過ぎる車がしぶきを上げている

地上10階の私の部屋にその音が響く

昼間そういえば道ゆく人の笑い声が

聞こえてくる時がある

高いところの方が音がよく聞こえるという


ここよりさらに高いところでは

ささやきのひとつも聞こえてくるのだろうか


私の心の声をとても高いところで

誰かが聞いていたりするのだろうか


ああ、この混沌とした私の声を

ああ、この混沌とした私の振る舞いを



2021年5月6日木曜日

それは失われた

通り過ぎた詩は

夜の街に満ちて

ネットに掠め取られて

断片だけがまたこうして現れて

ひたすらにつづりながら

訪ねてきた詩を探すのだ

また巡ることを私は知っている

記せるときに記すのだ

36の愛しき風景の中に

君を閉じ込めて永遠にする

流れてゆく時を止めることは

許されたポエジー

2021年4月20日火曜日

白詰草

こうしてまた光の速度で

溶け出してしまった私は

あなたの暮らす街から離れていく

朝陽が訪れるたびに

夢の香りから昨日の意味を知って

美しかったあなたが明日にもいるのかもしれないと

追いかけている

白詰草に包まれながら

どこまでここで漂う


2021年4月5日月曜日

炊かれた日々のほとりから

かじかんだ麒麟の群れが水平線を目指す


​打ち付けられた十字架の残響が

緑の丘を低く飛ぶ


​組み上げられた木材が

正方形の海に沈む


​密林の岩岩に夜光虫が、蛾が

息を潜めて訪れを待つ


​パプリカ


​鳥かごの重さを抱えながら

雨粒の軌跡をたどっていく


今朝、馬車は教会へ着いた

2021年3月22日月曜日

その光は少し前のこと

住み慣れた部屋へ

新しい傘が赤い傘がきて

そして雨が降った

日々の物語が流れ出して

羽が浮かぶ

その跡をたどって僕らは森の中へ

ざわめく木々が覆い被さる

泉へ抜けることを

知ってるフクロウがなく




2021年3月12日金曜日

 光速音速を超えて離されていく

光速音速を超えて近づいていく

記憶は失われ新しい記憶が入り込んでくる

終わりは始まり始まりは終わり

それでも留めようと留まろうと作り上げていく

静かな叫びは残り続ける

静かな光は輝き続ける

朽ちていく私の肉体に反して激しく震える魂が走り出す


2021年3月6日土曜日

アイラインを引いて誰かになる

知らない服を着て誰かになる

同じ動きを繰り返して誰かになる

息を潜めて暗闇に光の差すのを待つ

見慣れたはずの場所が遠い街の蜃気楼

彼らは別の誰かとして語りくる

ほんのわずかの時間、私は嘘になる

ほんのわずかの時間、私は誰かの真実になる

 夕暮れのもたれかかる/日に数本の路線バス/地方都市の湖畔沿いをゆく/春を待つ並木の枝が空に乞う/目的の停留所より少し前で下車する/名も知らぬ人々とすれ違う/もう会うことのない人々とすれ違う/私もまた彼らの景色//

2021年2月7日日曜日

明日、私はどこへゆく

地上から遠く離れて

いつかの君のいるところへ

風の吹くのを忘れて

光を辿って



2021年1月20日水曜日

いつ泣こうか君

 いつ泣こうか君

絶え間なく続く審判を欺いて

引きあてた幻に憂いて

君いつ泣こうか

季節が来て 人ははなれて 風が吹く 冷たい手のひらで 去っていく 金魚 煙であればいい 背徳の館に 君の影が さす