2010年1月29日金曜日

雨の妖精

夕立が上がり
すれ違う声が
雨の匂いがすると教えてくれた

人混みにまぎれて
顔も姿もわからない
それは雨の妖精

乾いた街の中に入り込んだ
それは雨の妖精
私は雨の匂いを吸い込んだ

2010年1月28日木曜日

裏切り者

幼稚園でのドッチボールの時間
耕介くんは白組の外野
美香ちゃんは赤組の内野
笛の音でゲームが始まる
わいわい、いけいけ

耕介君の所にボールが転がってきた
いつも一緒の美香ちゃんは
やっぱり耕介君のそばにいる
耕介くんは空に向かって力いっぱいボールを投げた

「おーい、耕介ー!そっちじゃねーぞー!」

2010年1月27日水曜日

女優

ガラスの靴を忘れたシンデレラは
物語の人物だけど
靴のかかとを忘れた君は
美しい肉体を持った女

君の躍動する命の輝きは
指先や髪の先にまで張り巡らされ
赤い靴を履くしなやかなふくらはぎは
大地に力を伝えるつなぐコイル

照明の落ちた暗転の中
ネガフィルムへ焼き付けられた
君の肉体の叫びは静寂へ浸かり
いっそう鮮明に浮かびあがる

2010年1月26日火曜日

痕跡

誰が来たのか
誰が去ったのか
それはなんとなくなくなる

なにがあって
なにが終わったのか
その痕跡すらなんとなくなくなる

私も誰かから
この世界から
なんとなくなくなっていく

2010年1月21日木曜日

その時海は銀色だった
青は空
空は雲で海の真似をしていた

その時海は金色だった
オレンジの朝陽
海へ金色の道を敷いた

その時海は鉛だった
風は恐れて
波の陰に隠れていた

その時海は暗闇だった
月がくすぐっても
息を飲み込む暗闇だった

海は・・・
海は・・・
海は・・・

その時海は殺人者だった
幼い私の足をつかんで殺そうとした
私は逃れようとどこまでも泳いだ

その時海は恋だった
行けば支配されるとわかっていながら
私はもぐりこんでいった

その時海は音だった
どこまでもやさしい母のように
私の嘆きを美しい旋律にした

その時海は永遠だった
私が記すときと同じように
その時海は永遠だった

海は・・・
海は・・・
海は・・・

2010年1月20日水曜日

ひとつの種が放り込まれ
流転する景色を眺め
闇へ思考を沈めゆくうち
幾年かの夜明けその種は
輝く陽光を受けて芽吹く
草木のそれと同じように
われら人間も陽光により芽吹く
草木のそれと同じように
われら人間も闇により育まれる

2010年1月18日月曜日

白猫

その白猫は誰かのそばでは眠らない
その白猫は誰もいないところでも眠らない

2010年1月17日日曜日

テスト

流れ込んでくる なにか
それは私の内部であり外部である なにか
理解など出来ようもない なにか

音に近い言葉の提示
それでも生まれるスタイルやフォルム
言葉へ落とし込むことによって

それは 体へ 流れ込んでいるものと
同じ わたしは鐘の音の傍にいたい
yyyyyyy

2010年1月14日木曜日

ヒロシマ

災いの火が
生活の灯を喰らったが
イノチノヒは
焼けた瓦礫の慰霊碑を
川のほとりにわざと残した
希望の日
登れと

2010年1月10日日曜日

鞆の浦

月の雫が入り江に落ちて
蒸気船の話し声に
釣り糸が漂うよ
鞆の浦

灯篭の灯りを魚がめざし
石畳の隙間で影が笑う
島々が亀に化けて竜宮へ誘うよ
鞆の浦

季節が来て 人ははなれて 風が吹く 冷たい手のひらで 去っていく 金魚 煙であればいい 背徳の館に 君の影が さす