星空の道

声をあげて笑う君は
もうここにはいない

遠いところへ行ってしまった君
羽もないのに羽ばたいて
星空の道は時に
その輝きが足どりを重くさせる

ああ

どうして！
そのたいまつを放り出してしまった！

ああ

どうして！
その灯を星にしてしまった！

卵

言いたいこと
ほおっておくと
嘘みたいに思えて
腐っていくように思えて
くるから
詩という殻
つくって保つ
さしずめ鶏
稀に金の卵
それでも
誰も暖めなくて
孵らず
古くなったら
砂糖とミルク混ぜて
パンケーキにして
食べたらいい

投げつけるより
平和だよ

オンボロバスの詩

どれだけ走れば
留まる場所みつかる
塗装ははげて
窓にヒビ
人々の手垢が花もよう
つぶれたタイヤに
食い込んだのはどこの砂
海の風を受けながら
ホロがぴらぴら
あの日の歌を憶えてる

赤ちゃんのおしごと

ピカピカお目々太陽
ぷにぷにお手々雲
ビービー涙雨
スヤスヤ寝息そよ風 

ははちちの薫りに包まれて
特製ベッドで天井見上げて
神様と明日の天気
相談してる

旅人心情

ぜんぜん知らないところに行ってみるというのが好きだ

とてもよく知っているところに行ってみるというのが好きだ

どこかここではないところへ行くことが好きだ

ぜんぜん知らないところにも

とてもよく知っているところを見つけ

とてもよく知っているところにも

ぜんぜん知らないところを見つける

ぜんぜん知らないとてもよく知っているところに身を置くのが好きなのだ

よく知っていた自分はぜんぜん知らない自分になり

ぜんぜん知らない自分はよく知っている自分になっていくのだ

かけがえなきもの

勢いで手放した
でもそれは戻ってきた
人手を渡って

私の元で良いのでしょうか

灰となろうと
もうけして
手放したりはしない

かけがえなきものよ

あなたは女優

履きなれないのと
脱いだパンプス
指先でまわして
街を闊歩する
あなたは女優

かんちがいするわと
身を摺り寄せて
川の流れみつめて
眠たそうに首をかしげる
あなたは女優

昨日のあなたを僕は知らない
明日のあなたを僕は知らない
キャメラの前で無防備な
客の前で目で震えてみせる
あなたは女優

性

花屋でバラを買ったのだが
期待したような香りはしなかった

観賞用のバラは長持ちさせるため
品種改良され香りがしないそうだ

ある日部屋に薔薇の薫りが立ち込めた
薔薇は朽ちかけていた

生きとし生けるものの性を私は嗅いだ

君空

青空の中に君を見ている
夜空の中に君を見ている
茜空の中に君を見ている
曙空の中に君を見ている

雨上がりの水溜りに落ちる空の中に君を見ている
車のボンネットに映る空の中に君を見ている
テレビに流れる異国の空の中に君を見ている
過去に記された詩の一節の空の中に君を見ている

今、このカーテンを揺らす風はどこの空から吹いているのか
今、綿毛を飛ばすこの風はどこの空から吹いているのか

それは
君の麦わら帽子を飛ばしたあの日の空から吹いている
つまりは
君の空から吹いている

目を閉じて浮かぶ空の中に君を見ている
目を閉じて浮かぶ君の中に空を見ている

本当に大切なことは

人には手の届く範囲がある

人には心の届く範囲がある

人には生の届く範囲がある

大切なところに

すぐに行けないほど

持ちすぎてはいけない

大切なことを

見つけることが出来たなら

それを大切にすることが出来たなら・・・

きっとそんなに多くはない

指の数ほど

愛、友情、仕事、思い出、健康
金、平和、自然、夢、想像力・・・

本当に大切なことは
足の指もあるということ

金環日食

その太陽は昇り始め
朝の薫りが合図のように
とても強くはいり込んできた

草木はざわめいて
鳥たちはなだめて
鱗をうけて見上げていた

最大の弱い蛍光灯下の中
遮光グラスの先で
その太陽は月へと化けた

太陽の月は輝く金環を
記憶の河へと投げいれ
その太陽へと還っていった

つじつま

今日だけ自分を騙せ
三日だけ自分を騙せ
半年だけ自分を騙せ
彼女など愛していないのだと
そうすれば
その嘘は真実となる

北南西東

少し北へゆけば
まだ葉桜
あの日に似た葉桜

懐かしむのなら北
確かめたいのなら南
やりなおしたいのなら西
わすれたいなら東

掴みたいなら
動くな

来る

来た　皆、見！
シャー、トン！

兆し

揺れる事象

光と影に

受け取る

ほこりすら

世界の

落ちている

兆し

御苑

ぬくもり保つ
陽射しの
芝生の
夕暮れ

つつじの蜜
騒ぐ風の
運んでくる薫りに
寝転び

景色につつまれる
文字の
時間に平行する
君に

命の花

どんなところより
あなたといると
僕の命が咲くのです

どんなところより
あなたといると
私の命が咲くのです

磁石

あなたは磁石のように
僕が近づくとすすっと逃げる

でもあなたは
僕の近づきたくなる距離にいて

笑ってる

ガーナ

よがなよっぴて飲み騒ぎ/ 木陰で休んで日がな一日/ 猫と寝てたがな/

ひまなひと

世界がポエジーだった頃を
誰も憶えてはいない
わずかばかりの
ひまだといわれている人が
たぐりよせて
ユートピアをつくろうとしている

摂取

次は新宿
次は新宿

というアナウンスを
幼子が口の中で繰り返している

ちゅぎはしんじく
ちゅぎはしんじく

幼子は珍味を味わうように
反芻　咀嚼　嚥下

・・・ちゅぎはしん宿
・・・次は新宿
・・・次は新宿

言葉は幼子に摂取され
語られはじめた

男と女

男はそれを愛だと思い込み
女はそれを愛だと気付かない

帽子

ともしびの揺れるＢＡＲで
言葉を忘れようと飲んでいた
隣りに座っていた女が
私の帽子をかぶりたいと言った

煙草が切れた

私は煙草をくれと言った
煙草の煙に
言葉が流れ出して
頭上に輪ができた

私は女に帽子をやった

試み

愛するとは何なのかと
星空を見上げて
雨音を聞いて
ずっと前の人も考えた
これから生まれてくる人も
考えるだろう

いろんな人に出会い別れて
これ愛だろうか
愛だったんだろうかと
考えられるのは
生きているわれらの特権
権利が失われるまで
僕は考える

その人を想うこと
明日へ向かい
試みること
それは生きていること

猫 ポテ

飲み屋のお通しの
ポテトサラダが大好きな
猫　ポテ

狭い路地の真ん中に
寝転がって　ハムの混じった服着た
猫　ポテ

旅に出たのか
恋人追って行ったのか

向かいの店の水瓶に
メダカが泳ぎ始めたよ
猫　ポテ

のぞきに来いよな

余白 余力 ・ －

部屋をかたずけていたら
使いかけのノートが
山と出た

英語の練習　日記　仕事のメモ
余白　たっぷり

余白に私はこうして詩を書く
詩を書くことそれは
この世界の余白を埋めること

たっぷり汲んできた
詩情で世界を満たすこと

部屋をかたずけていたら
使いかけの鉛筆が
森と出た

とんぼの　景品の　噛みあとの残る
余力　たっぷり

余力にまかせて私はこうして詩を書く
詩を書くことそれは
この世界の余力を使うこと

たっぷり汲んできた
詩情を世界に混ぜること

満たすにはふちがいる
混ぜるにはすきまがいる

そしてある

詩があらわそうとするのは
そこに浮き彫られる
いつかのそれの

・　－

あるいは君

－　－

あるいは僕

・　・　・

月と狼

月の近づくように
君に近づいて
頭に血の昇った
狼のように
月の力を借りて
勇敢に君を
今夜おそうのだ

うつむいて

携帯のむこうの
なにかありそうな世界に
気持ちうばわれて

うつむいて
空の青さに気が付かない
夕日の美しさに気が付かない

そばにいるのに
君に気が付かない
僕に気が付かない

一歩一歩進む

この道をゆけば
保つのが
苦しくもあるが
歓喜がある

たくさんのことを好きになるが
ひとつは愛するだろう
ひとつには愛されるだろう
一歩一歩進む

わたしわたし あなたわたし

あの　あたたかな　ときの　ながれる
あの　あたたかな　わたし　

あの　あたたかな　うたの　ながれる
あの　あたたかな　わたし

わたしのさがす
わたしは　あなた

あなたのまつ　
あなたは　わたし

わたし　わたして
あなた　わたして

あの　あたたかな　ときの　ながれる
あの　あたたかな　わたしたちに

しんせつ

雨降りのホーム
雨漏りしているところに
警備員が立っている

客が濡れないように
声をあげて誘導している
とても親切

もう貼り紙はいらない

金木犀

私、夜、
金木犀の香りがすると
悲しくなるの