2022年10月19日水曜日

春嵐

 窓が曇り出したのはぼんやりとして火にかけ続けたやかんのせいかと思ったが

押し付けがましく広がる雲から降る雨が春の嵐に叩きつけられていたから

階下に降りてみると案外雨足は弱く構えて軽装で防水靴をはいている自分を笑った

数刻前までは家を出たくはなかったなぜこの嵐の中を行かねばならぬのかと思った

バイト先は自粛のために私が行かなくてもなんとでもなる本当にいかくてはならない場所では

ない。しかして私が本当に行かねばならぬ場所はどこなのだろうか

仕事の終わったあと真っ直ぐに家に帰らず電車を乗り換えて飲み屋街に出かけた

間違えて違う駅で降りた、二駅手前だった。

それから目的地までそんなにかからないだろうと歩いた。

私に必要なことはここにあるのだろうかと

私が求めるものがこの歩く先にあるのだろうかと

職場の同僚の誕生日だったことを思い出して、

このみちの先に何か文具屋のあったのを思い出した

そこへ向かおう

持ち歩いていたフィルムがないのを思い出した

電気屋がこの先にあったはずだ

買えるかもしれない

それが私に必要なものなのか

記録を残したいのか

映画を作りたいのか

未来が教えてくれる

足跡を私は辿る

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季節が来て 人ははなれて 風が吹く 冷たい手のひらで 去っていく 金魚 煙であればいい 背徳の館に 君の影が さす