2012年12月24日月曜日

マシューアーノルド「ドーバー海峡」意訳


今夜の海は穏やかで
潮は満ち、月は海峡へと横たわり 
フランス沿岸の微かな灯も消え
イギリス断崖はぼんやり光り
静かな入り江に広がる
窓からは甘い夜風!
照らされた海と陸とのはざまには淡い線
聞こえるのはきしむ音
打ち寄せた波の
小石を引きずり、散らす
引き返してゆく波の
小石を引きずり散らす
怯えたペダルのような
永久に続く哀しみの調べ

かつてソフォクレスは
エーゲ海の運ぶこの調べを
北の海で自らの内にも流れる
引き返し打ち寄せる混沌たる
人の哀しみを聴いた

海の意思は
潮が満ち、輝く帯に似た
私たちの彼岸を
幾重も折り重なり包み込む
しかし私が今聞くのは
続く限りのな重苦しいうめき
息吹きの収まりとともに
夜の風は沈み
おびただしい剥き出しの砂利が
世界の闇となってゆく

ああ、愛よ、ほんとうになれ!
お互いの世界のために
私たちの目の前に横たわる
夢のような大地
ほんとうにある
多彩で美しく、
新しい喜びと共にある豊かさ
あるいは確かさ
あるいは光
あるいは慈しみ
あるいは平和
あるいは赦し

私たちはまだ薄暗い水平線
曖昧模糊とした怯えのなかにもがいている
知り得ていないことの群れと戦っている
夜のほとりに立って

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季節が来て 人ははなれて 風が吹く 冷たい手のひらで 去っていく 金魚 煙であればいい 背徳の館に 君の影が さす