2012年1月18日水曜日

大地に


2011年3月11日
北の大地が揺れて
おおくの灯が飲み込まれ
不安が漏れ出した

我々は北へと向かった
線路沿いのプレハブから
闇は覆いかぶさり睨んでいたが
我々の道を照らす光は
一切ひるまなかった

その青年は西から訪れ
何かの助けとなる
何かをつなぐ
ひとくさりとなることを知って
ガレクシャの山を通り過ぎ
重石のような泥のまとわりつく堤防を
我々と行きかいながら
土に触れ
土を食んだ

鋼鉄の枠組み

スーパーファミコンのコントローラー

赤い靴

繋がれたままの家畜

空に伸びる松

たちよったラーメン屋の親父は
煮える釜を見つめていた
湯気が昇っていた

不安を含んだ雨が
ボンネットの上を歩き
ガイガカウンターの針が振れる
突き抜けてくる不安は一切見えず
突き抜けていった恐れは一切匂わず
ただ我々を
(受けたものとしての
つくりだしたものとしての
誰もがそうであるところの)
毒虫に変えた
毒虫たちは不安を飲み
毒虫たちは恐れを食べ
毒虫たちは放尿し
不安の星で叫んだ
夜明けをまちながら

―この星で―

俺が人類の敵なら
することは決まっている

俺が人類の味方なら
することは決まっている

俺は人類だから
沈黙はしない
俺は愛する人と生きたいから
沈黙はしない


曇りガラスの先が青々と染まり
毒虫たちは東へと
不安の海へと向かった
まだ足りぬとばかりに
不安の海はうねり
うなり
大地を食べていた

毒虫たちは問いを投げかけ
沖へ沖へとすすんだ
不安の海は
はじき
もみくだし
さみしげに毒虫たちを
吐き出した
何の問いにも答えぬままに
しかし、その時、
毒虫と不安の海は
どこまでも対等だった

夕日の中で語らぬまま毒虫たちは
ガレクシャの山の一部を
見知らぬ人の
生きてきた記憶をひろいあげ
こびりついた泥をふいた

卒業アルバム

結婚式の領収書

子供らの内緒の手紙

うまらぬ手帳

その男は不安の漏れ出した中心からきた
電柱に奇妙な果実のなるのをみた
と言った
老人たちが血を吐き出すのをみた
と言った
その男に連れられて橋のたもとに行った

その男は川の先を見ていた
この季節遡上する鮭をみせようとした
川はまだ静かだった

しかしその時、毒虫たちは
一語一語、語られた言の葉に身を包み
一枚一枚、拾われた言の葉に身を包み
さなぎとなった

まばゆい月が雲の割れ目から
生れ孵る舞台をのぞいていた

果実の泡 

絵描きの夢 

紫の煙 

生きている愛する者の声

ー皿ー

さらわれた皿 さらに サラダ
われた皿 なおさら ささみ
まっさらな皿 いまさら さらばい



毒虫たちの体が割れ
蝶たちが立ち上がり
光の中を舞った
背中には強い羽が広がっていた

蝶たちは象徴をつかむべく
太古より流れる
川へと入りこみ
たたずみ晒して交わる

揺れるススキをかきあげ
輝くアユを眺め
跳ねるしぶきを撒きちらし
あたたかな風を嗅ぐ
赤く染まる山に触れ
やわらかな岩を吸い
萌える命はとめどなくあふれ
一切の不安にひるまなかった

つめたさもはげしさも
はしゃぎながら
蝶たちは交わる 
大地ははしゃいだ
蝶たちははしゃいだ

一切の邪気なしに

港で待ちわびるカモメが鳴いている
港で待ちわびるカモメが舞っている
ニーニーニー

轟が響く
轟が
この大地へ突っ込んでくる
この季節遡上する鮭に伴ない轟が響く
鮭はこの大地に戻ってきた
豊穣を立ち上げるために
水をはね身をよじりながら

蝶たちは咀嚼され鮭となり
共に轟を抱え大地へ突っ込む
流れを超えて
悠久の中に突っ込んでいった

大地は轟を聴いた
海は轟を聴いた
我々は轟を聴いた

それは一切ひるまず
それは一切消えることはなかった

我々は全く新しい目覚めの中に息をしていた
我々は毒虫であったことを引き受けて
我々は蝶であったことを引き受けて
我々は鮭であったことを引き受けて
息をしていた
深く深く
息をしていた

我々は南へと向かった
川沿いの駐車場から
現実は覆いかぶさり睨んでいたが
我々の中に響く轟は
一切ひるまなかった

我々の中に立ち上げられた萌芽は
朝陽に萌えていた

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季節が来て 人ははなれて 風が吹く 冷たい手のひらで 去っていく 金魚 煙であればいい 背徳の館に 君の影が さす