2013年7月1日月曜日

物語

昔々あるところに
燃えさかるホウキを振り回して暴れる鬼がおりました。
種をいくら蒔いたとしても収穫の時期になると
すべてそのホウキの炎で焼き払われ
村の者たちはたいそう困っておりました。
今年こそは鬼が現れないようにと 
祭りのたび太鼓を叩いて舞を踊りました。
ある者は7晩も村の外に立ち続けたのでした。
それでも鬼の所業はおさまりません。
村の者たちはその鬼が現れる原因についてこう噂していたのです。
あれは王妃争いに負けた別の物語の娘のなれのはてなのだと。
あるとき一人の若者が訪ねてきて老婆に言いました。
もういちどその場面を再現してみましょう。
負けてしまうのではなくて、
うまくいくように話の筋立てを変えて見せてやるのです。
わらにもすがる思いだった村人たちはその物語を再現することにしました。
王子役、娘役、そしてしあわせをうらやむ村人役
その場面の絵を描き、ひとりの男に物語を朗読させました。
王妃争いに負ける場面、
王子が求婚を申し込む場面にきました。
本当は娘は退屈な王子の愛のセリフに
思わず空をみあげてあくびをしたのですが
物語の上では星空の美しさに見とれる場面としました。
するとどうでしょう、
鬼は燃えさかるほうきを
赤い団扇に持ちかえると、一振り。
村をもとの姿に戻しました。
そして再び村で暴れることをしなくなりました。
村人たちは安心して畑に種を蒔いています。
娘は別の物語の中でガラスの靴を履いてしあわせに暮らしましたとさ。


おしまい

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季節が来て 人ははなれて 風が吹く 冷たい手のひらで 去っていく 金魚 煙であればいい 背徳の館に 君の影が さす