2009年5月23日土曜日

道は足元より伸びてゆく
踏み出した道が正しいのか過ちなのかはわからない
ただ自分で選んだ道であればそれでいい
迷うことを恐れていたずらに踏み出すことや
戻ることを恐れて進み続けた道には何も待ってはいない
自分で決めた道ならば
その先には必ず何かが待っている
行きたいと思うなら進めばいいのだ
人に笑われることを恐れて躊躇したり
孤立することを恐れてごまかした道には何も待ってはいない
未踏であろうが険しかろうが
自分のこころに沿い進むのならば必ず何かが待っている
信じなければならないのは
自らの命が発したわずかなる声と
無限に満ちるこの世界の豊かさなのだ
過去を振り返らず
今あるこの時を感謝し踏み出すのだ
あなたの道を
君の道を
そして僕は僕の道を
どこかでその道が交わる時は
この世界に抱かれながら未来を語り道草をする
再び歩き始める時もさよならはいわない
自らの道を歩む友にさよならはない
大空を伝って
大地を伝って
あなたの道を
君の道を
そして僕は僕の道を
命で踏みしめる足音が聞こえるから
静かにこころ澄ませば

2009年5月21日木曜日

てんとうむし

てんとうむしが
てんじょうに張り付いて
おてんと様みたいに
僕らを見ていた
初夏の夜

2009年5月20日水曜日

無力

風が吹いています ここには
光が注いでいます ここには
音がします ここには

明るいところは暖かく
大きな木の下は涼しい
人のいるところは安らぎがあり
空のあるところは穏やかで

黄色い花も赤い実も
みんなそれを知っているけど
人だけがそれを忘れて
愛という名で
やさしさという名で
正しさという名で命を奪う

僕の詩にもう少し力があれば君は
死ぬことはなかったかも知れない

せめて名前をつけるよ
『風』と
この星では風が吹いていて
そのたびに君を思い出すために
風のとても強い日に死んだ君のために

風が吹いて『し』が生まれて・・・
ああ、しかし、いくら積み重ねても僕のは
レクイエムにもなりはしない

2009年5月10日日曜日

無題

世界中のすべてを敵に回してもなんて言葉を
平気で言える時は世界を敵に回すつもりなんて全然ない
今の生活の安心が少しでもぐらつくようなら
いくらでも頭を下げてうすら笑いをして黙り込む
そうやって時間の流れに押し流されてはててゆく
ああ、なんとはかなくむなしいのか
逆らうことはむずかしいけれど
せめていい流れのほうへ
清く緩やかないい流れのほうへ向かえるよう
手を強く水面へさす

2009年5月8日金曜日

愛の言葉

時にはひそやかに伝えられる
愛の言葉があってもいい

しんとした夜に
なにも考えていないとき
心にぽっかりと浮かんでくる
ひそやかな愛の言葉があってもいい

街も人も寝静まったときに
いっそう膨らんでいく
愛の言葉があってもいい

示されることさえためらわれるような
そんなひそやかな愛の言葉があってもいい

歌唄いに捧ぐ詩

歌唄いが死んで
歌唄いの曲が
その夜はラジオでたくさん流れた

楽しい陽気な曲ばかりで
よけいに悲しくなって
やたら誰かと話したくなって
電話をかける

月のうらの宇宙人だとか
地球のうらの大統領だとか

すてきな歌唄いの歌の一節を
唄いあげると
みんななぐさめを言いながら
その一節を繰り返すのだ

死んだ本人は
自転車で土星の輪を回りながら
新しい歌を唄っている

小杉湯

ゆらゆら波打つ
湯船につかって
100まで数えて
心のしんまであっためて
働いたおっちゃん達の
背中ながめて
ほーっと息をはく
壁に描かれた
山なみ見つめて
家族とハイキングに行った
子供のころを思い出す
96・・97・・98・・99・・100!
またみんなで行こうね温泉
さて、牛乳が呼んでいる

ソッポ

ソッポ向いて
あっち向いて
こっち向いて
でもそばにいて

ソッポ向いて
いちばん気にしてる

2009年5月1日金曜日

トランペット

あなたにもらったトランペット
別れてからいくら吹いても
悲しい音色にしかならなくて
一緒に暮らした街を離れるときに
手放した

「続けられるの?」と問いただしたあなたに
「もちろん」と答えて
部屋の隅で眠るトランペットに
積もりはじめたのは
僕らの心の間から生まれた寂しさ

どこかでトランペットの悲しい音色を聞くたびに
あなたを思い出し胸にしみる

あなたにしてあげたことのすべてを
あなたにしてあげられなかったこのとすべてを
今寄り添う恋人にしてあげようとおもう

「続けられるの?」
「もうすぐパパになるんだ」

2009年4月27日月曜日

男子学生

赤い髪の男子学生が
電車に乗ってきた
真似たのか
主張したいのか
ニキビの吹き出た顔の上に
帽子のような赤い髪
威嚇しているのか
警戒しているのか

人との距離や
人との対話に
恥ずかしくなって
髪の先まで赤く染まる
男子学生

窓から街並みを眺めている
私は彼に私を見ている

わたしはそれより

記した詩が
人の心に届き
一瞬の清涼となるならば
私はそれより何を望もうか

記した詩が
人の心に届き
一瞬の情熱となるならば
私はそれより何を望もうか

人が私に触れて
心をほぐし放ってくれる
私は放たれたまま自由にさせて
漂うのだ
私はそれより何を望もうか

新聞

毎朝何万人という人が
インクの匂いを嗅いで吐き出している
そこに殺人や巨人戦の結果が添付されている
八百屋で白菜が安いとかインクに乗って
鼻から脳に伝わってわかるのだ
新聞はにおいで出来ている

白い花

白い花庭先に静かにあり
戻らず出て行く私を見送る
気にもしなかった風景が
さよならとばかりに主張している
四月の夕暮れ

2009年4月16日木曜日

音楽

あなたの奏でる音楽をどこかで聴けるその日まで
音楽は余興

太陽

太陽はあたたかい
そしてやさしく体を目覚めさせる
太陽はつつむ
そして張りつめた不安を拭い去る
太陽、太陽よ
君に焼かれるのなら僕は何もいうまい

三鷹

生まれて恋して笑って泣いて
書いて死んだ作家の街三鷹

自分を見つめてたまねぎの皮みたいに
何にもなくて自分から出たのに
皮がまるでうそみたいに感じた
作家の住んだ街三鷹

整備され静かになった街並み
恋して心燃やして生きたのだ
僕の住んだ街三鷹

2009年4月11日土曜日

桜の季節に

わずかなときだけ咲く桜
また会えるのかと眺めてる
隣に笑う家族や友や恋人ら
また会えるのかと眺めてる

花は散ってしまうけれど
花はなくても桜は桜
宴は終わってしまうけど
家族や友や恋人は明日も
家族や友や恋人で私は私

時は過ぎ去り生きる私らも
空を桃色に染める桜も
いつかは光と影になるけれど
再び巡り森羅万象の種子となり
再び巡りあなたの傍らの花となる

再び巡りあなたの傍らの花となる

2009年4月9日木曜日

オーダーメイド

愛したものにも
愛せなかったものにも
愛された私にも
愛されなかった私にも
どこまでも等しく
オーダーメイドの肉体がつきまとう

2009年4月8日水曜日

占拠

惚れた女の傍に
汗のにおいが立ち込めて
私は占拠された

2009年4月5日日曜日

とても幸せ

寝るとこがあって
食べるものがあって
着るものがあって
うたたねしてる家族がいて
とても幸せ

風が吹いて
木々がさわさわゆれて
陽が差して
シャワーをあびる
とても幸せ

珈琲を飲んで
美術館に行って
大好きなあの子に
手紙を書いた
とても幸せ

桜の木の下で香りをまとい
海の音につつまれ
実りをほおばり
雪の花を眺める
君の暖かさを確かめながら
とても幸せ

そんな風に
日々が穏やかに流れて
おじいちゃんになって
やっぱり誰かのそばで
心静かにいるんだ
とても幸せ

涙がでるくらい
とても幸せ

2009年4月2日木曜日

善人だということ
真面目だということ
やさしいということ
裏切らないということ
悲しくないということ
寂しくさせないということ
逃げないということ
いつも微笑むということ
忘れないということ
争いがないということ
人が分かり合えるということ
平和だということ
愛しているということ
幸せを感じるということ

すべて嘘
すべて望んでいることだから

2009年3月31日火曜日

こころとからだ

こころはなれて
からだもとめ
からだはなれて
こころもとめる

ああ さよなら

2009年3月28日土曜日

まくら

電車でとなりのひとが
いつしかいねむり
僕の肩はまくら

バスでとなりのひとが
いつしかいねむり
僕の肩はまくら

ガタガタ
ブーブー
うとうと
すやすや

もう春です

僕もいつしかいねむり
となりのきみの肩はまくら

2009年3月26日木曜日

詩のあるところ

近づいたときに
生まれる詩を

はなれて思い出して
記すような詩でなく

そばにいるという
ひとつの愛の詩を

そのぬくもりの中に
みつけたい

2009年3月25日水曜日

カサブランカ

退職する老いた恩師に
体にぴったりカサブランカ

蒸しかえる教室
汗拭くハンカチが止まり
カサブランカが
小さく静かに長く揺れている

2009年3月17日火曜日

逢うこと

あなたが好きで
どうしようもなく
ただ逢いたいだけなのに
映画やお茶や
そんな口実ほんとは嫌だ

晴れたからでいいし
雨降りだからでいいし

いつがいいなんてもの
どうでもよくて
月曜が休みだとか
週末に給料が入るからだとか
そんな口実ほんとは嫌だ

生きているこの瞬間
あなたに逢いたい

いつだって何を差し置いても
あなたに逢いたい

あなたに逢うこと以外
大切なことなど何もないのだから

2009年3月16日月曜日

にわか雨

昨晩降り出したにわか雨
庭の小池に星空浮かべ
新しい朝にほほ笑む

2009年3月3日火曜日

タバコと海

タバコの煙で
消えていった男のすきまを
うめようとしたってだめ

臭いが服と心に
しみついて
どこまでも追いかけてくる

そう

海にでも行くのね
潮風にあたって
少しひりひりするほうが
タバコの煙よりずっといい

ある朝ぽっかり
詩がやってきて
そして去った。

2009年2月25日水曜日

女は

走り行く闇をまなこに沈めし若い娘
花と鳥に彩られたくましき腕に盗まれ
捧げられる夢を見る

かくして若い娘は生を美しく完結させ
針で傷ついた指先に流れる
赤き花びらを大気に吸わせる

恥じらい確かめ安堵しながら
心のうちにしまいこみ
高く陽の昇る浜辺にてひっそりと眺める

ふけり懐かしむゆうべ
娘は娘でなく女となる
女はだれでもそれを持っている

2009年2月23日月曜日

雨と雲

また雨だ
この街は雨ばかり降る
買ったばかりのコートがまた濡れる
石畳を流れる雨水が川へ
いつか君の住む海へも行くならば
男と君の足元へ貝殻を届けよう
あの時君がうつむく僕に
星空教えてくれたように

マシュマロみたいな雲が飛んでいる
遠い街へ行ってしまったあなた
雲の行く先にあなたの空があるならば
恋に落ちてるあなたと彼女に
通り雨を降らせてあげる
あなたがコートを女かけて
風邪でもひいてしまいなさい
あの時あなたが凍えるわたしに
暖かさ教えてくれたみたいに

2009年2月20日金曜日

眠たくなる

眠たくなっちゃう
君といると
眠たくなっちゃう
なんだろ
眠たくなっちゃう
ほんととにかく
眠たくなっちゃうから
一緒に夢につれていく
たくさんキスしたあとで

ふれる

紙にふれるえんぴつ
髪にふれる指
髪にふれるまなざし

不安

薄汚れた醜い夢に
いつしか僕の中の
やさしさが死んでしまうのではないかと
不安になるのです

日常

おとといの冬だとか
あさっての風だとか
会った日の木漏れ日だとか
来年の落ち葉だとか
雨のむせび立つ夜だとか
粉雪踊る朝だとか

どれも地球が呼吸してるみたいに
あなたとのあたりまえの愛の日常

鈍行列車

たどりついたどこかで出会うあなたに
多くの景色を教えたいから
僕は鈍行で行くよ

ホームに佇む人々や
線路沿いに広がる田園の香り
体揺らせてレールを踏み越える音

つくことも
たどることも
喜びだから

あなたへ
あなたと

酒飲み

昼酒飲んで
アルタ前で
「いよ~」とからんで
いい年した大人が
ふらふらしてね
太陽が「おつかれさん」と
その頬はさらに赤く

2009年2月18日水曜日

僕は

百年も生きられぬのに
なぜこうも日々迷う
大木は千年の生き
ただ天にまっすぐに伸びていく
短いから迷うのか
ならば蜉蝣ははたして

人間という存在に生まれ
正しくあろうとするのに
自らが正しき人間でないと気付いて
取り返しのつかぬ過去に迷い
歩むべき道の険しさに愕然とする

行き着いた先で裁かれ
正しさとはそぐわぬ
その生だったとしても
行く
僕は
いく

2009年2月14日土曜日

不思議な夢

不思議な夢を見た
大理石の立ち並ぶ広場で
着物を着た女と
コートを着た男
知人のO氏と
シャツ姿のT氏
スーツの見知らぬ外国人
そして私

みな笑顔で
順々に2行詩を読み上げる
私の番が来て
思いつくまま
焦りながら
2行の詩を読む
内容はすっかり忘れたが
少しはうまかったのか

目覚めて私は微笑んでいた
そんな朝があってもいい

2009年2月13日金曜日

酒場にて

酒場をやりませんかと
酒飲みが呼び掛けて
酒飲みながらうちあわせ

氷がとけて
夜がふけて
お金ないねと笑ってて
場所何処にしようと笑ってて
何売ろうかと笑ってて

いつしか

ボトルもグラスからっぽで
なにもないけど僕らはそこに夢をそそいだ

酒場をやりませんかと
酒飲みが呼び掛けて
酒飲みながらうちあわせ

僕らはそこに夢をそそいだ
いつまでもつきぬ夢をそそいだ

白銀

流れゆき過ぎた季節の中で
待ち望んだぬくもりは
忘れてしまった遠い未来で
触れられぬ雪のように降り注ぎ
窓を開けぬ部屋の中でこそ
みつめられる

火を落としカーテンをしめ
夢の中へもぐりこむ
ただゆるやかに
かくじつに世界は白銀へ
いつまでも白銀へ
そして私は
心臓を貫かれながらドアをあける

五分も持たぬ白銀へのドアを

2009年2月10日火曜日

静かな夜

近すぎて見透かされようで
怖くて
幸せすぎて今が過ぎるのが
怖くて
あるものがなくなるようで
怖い

時間はどうしていつも進んで
世界はどうしていつも変わってしまうのだろう

静かな夜は騒がしすぎる

poem on chair

僕たちのいくつかの言葉について 僕たちのいつかの言葉について ここへのせる たゆたう からだの ひとつのように 椅子へ腰かける穏やかな老人のように poem on chair