2012年12月31日月曜日

終わりの地点、始まりの地点

始まったばかりのことがもう終わっている
終わってしまったことがまた始まっている
その境目をつけようとするけれど
川のように辿るだけだけなのだ
星空のように膨らむだけなのだ
計るために人は地点を記すのだ

2012年12月30日日曜日

鍵をもっている
ドアを開けるのは
その鍵だけだ
役割をもっている
それが出来るのは
その存在だけだ
そこにあるということが
開くための鍵
もっていることに気がつくこと
それだけがすべての鍵

2012年12月29日土曜日

冷えるんだ

君のそのぬくもりを
与えてくれないか
とても冷えるんだ
足の先から胸の内から
とてつもなく冷えるんだ

2012年12月28日金曜日

いつの日か

私は詩人になりたい
その言葉がやさしさを持ち
触れた人のこころのほぐれるような
その言葉が鏡のように
みる人の姿を映し
その言葉が思い出のように
懐かしい人がそばにいるような
その言葉が美しく輝き
抱きしめて慈しめるような
詩人になりたい

私の名前の中には
「武」という字がある
矛を持って歩いているようすを現したものだ
私は詩を携えて進む
その言葉がナイフや銃や原子爆弾を
ものともぜず、争いを終わらせる力を持つ
詩人に私はなりたい

2012年12月27日木曜日

帰り道

帰り道月がとても綺麗で
空気は澄んで冬の薫りがした
あなたの声が聞きたい

帰り道月の明かりで
影が伸びて僕の横を歩いている
あなたの影に触れたい

今夜の風に乗せて
今夜の月を見上げるあなたへ
変わらぬ愛を放つ

少しづつ満ちて行く月のように
必ずに近づきながら巡る月のように
変わらぬ愛を放つ


2012年12月26日水曜日

きもち

こころのなかの
ちっちゃなきもち
どうしたらわかってもらえるかな
すごいしんけんに
いいたいこととかことばにしたら
すごいすくなくなって
あんまりめだたなくて
おんがくにのせてみたり
いらないことばくわえてみたりさ
でもほんとはつたえたいこと
すごいちっちゃくて
こころにわいたのとおなじ
ちっちゃくてさ
だれもきいてなくて
なにそれっていわれてさ
それでさそれでさ
かなしいわけさ
おさけのんでさ
こうしてかいちゃうんだ
だれかきいてくれるかな
こころのなかの
ちっちゃいきもち
でもたいせつな
きもち

2012年12月24日月曜日

マシューアーノルド「ドーバー海峡」意訳


今夜の海は穏やかで
潮は満ち、月は海峡へと横たわり 
フランス沿岸の微かな灯も消え
イギリス断崖はぼんやり光り
静かな入り江に広がる
窓からは甘い夜風!
照らされた海と陸とのはざまには淡い線
聞こえるのはきしむ音
打ち寄せた波の
小石を引きずり、散らす
引き返してゆく波の
小石を引きずり散らす
怯えたペダルのような
永久に続く哀しみの調べ

かつてソフォクレスは
エーゲ海の運ぶこの調べを
北の海で自らの内にも流れる
引き返し打ち寄せる混沌たる
人の哀しみを聴いた

海の意思は
潮が満ち、輝く帯に似た
私たちの彼岸を
幾重も折り重なり包み込む
しかし私が今聞くのは
続く限りのな重苦しいうめき
息吹きの収まりとともに
夜の風は沈み
おびただしい剥き出しの砂利が
世界の闇となってゆく

ああ、愛よ、ほんとうになれ!
お互いの世界のために
私たちの目の前に横たわる
夢のような大地
ほんとうにある
多彩で美しく、
新しい喜びと共にある豊かさ
あるいは確かさ
あるいは光
あるいは慈しみ
あるいは平和
あるいは赦し

私たちはまだ薄暗い水平線
曖昧模糊とした怯えのなかにもがいている
知り得ていないことの群れと戦っている
夜のほとりに立って

2012年12月23日日曜日

クリソコラ


小さな部屋で響いた声が
取り除くことの出来ない
私の中のしこりと共鳴して
音もなく欠片をおとした
知られることなく
時の河へとしずんでいった

2012年12月22日土曜日

マヤ暦の始まり

5000年の始まりは
恵みの雨降り注ぎ
夕焼け空に一筋の虹

それぞれは一滴の雨粒
舞えば輝き七色に
5000年ののちまで注ぎゆく

2012年12月21日金曜日

みんな何処へ

みんな何処かへ行ってしまう
居心地の良い場所を見つけて
居心地の良い人たちと
ああ、みんな何処へ行ったのだろう

2012年12月20日木曜日

生きること

人の何が正しい
人の何が悲しい
生きること
ただ生きることが
教えてくれる

2012年12月18日火曜日

恋の詩

私は恋を詩に閉じ込めて
並べては見返すコレクター
あなたを閉じ込める言葉を捨てて
あなたの地点に歩き始める

2012年12月17日月曜日

瞑想


まぶたを閉じて

菜の花揺れて
おおよそ黄色

草原浮かんで
おおよそ緑

抜け出さなくてはならないと私は想う

広がる空
おおよそ青

知っているのだここにあること

真紅の薔薇
おお、赫

君を見つめたのは今朝のこと

2012年12月16日日曜日

大切なこえ


とても大切なこえ
湧き上がるとき
仕事の電話が鳴り
キュートな娘が通り行き
無粋なセールスマンが
バイクを吹かす

それでもわかっているさ
大切なこえ 音をこえて

とても大切なこえ
風にさらすとき
雷が鳴り
象が走り抜け
騒がしい客が来て
赤子が泣く

それでも伝わっているさ
大切なこえ 音をこえ

気付いてさらせば

それでもわかっているさ
大切なこえ 音をこえ
それでも伝わっているさ
大切なこえ 音をこえ

2012年12月15日土曜日

まちをでる

いつまでいたらいいのか

よくわからなくなって
いちどはなれてみたいんだ

そこにいるときの
そこにいないときの
じぶんのかたち
すきになりたいんだ

じぶんのことも
じぶんをつつんでくれた
このまちのことも
すきになりたいんだ

おわかれじゃないから
さよならはいわない

2012年12月14日金曜日

物語

毎日少しづつでも
作り上げて行く方向へ
向いて行くということ

死の物語を
ひとつひとつ
触れて再生させて

その接点をさがす

2012年12月13日木曜日

詩を書いてなにを望む?


詩を書いていて何を望むのかと尋ねられた。
嬉しいなと思うのは、読んで(聞いて)もらう事。
そこでいいなぁと思ってもらうのはもちろんなんだけれど、どこか違う場所や時間でふと思い出すことがあって、笑ってもらったり、いい景色だねと問いかけてもらったり、哀しいのは自分のだけじゃないなと少しの支えになったりすることがあるのならば、それはほんとうに嬉しいことで望むところ。
僕自身が昔の人の詩に触れ、そういうささやかにして大いなる幸福を感じたように、また僕もそういう詩を書けたらと思うのです。


2012年12月12日水曜日

ふちどり

深い沈黙の中で
照らされているもの
星座 あるいは
言葉のふちどり

2012年12月11日火曜日

ベテルギウス

それはあったのだ
すでにないのだとしても
そして記されたのならば
やがて誰かが思い出すだろう
その清らかな香りに似た
響きと共に

2012年12月10日月曜日

ダビング


消してはいけなかった
だけれども気がついた時には
黒い磁気テープの記憶は
塗り替えられた
何が記憶されていたか
何が大切にされていたか
ダビングされて
新しいやり方だけが
はっきりとしている

2012年12月9日日曜日

2等の話


店の向かいにあるコンビニポプラで買い物をした。
店外に出ると「商品を買ったお客様に限って抽選です」と、くじを箱も持った男。
くじを引く。
「今日が最終日なんでもう一枚引いていいですよ」
一枚ははずれ、もう一枚は2等
「うわぁ〜!お客さんついてますね!2等のウォーターサーバレンタル永久無料が当たりました!」
用意されていた契約書を片手に住所やら名前やらを聞かれる。
それは、サーバーレンタルは無料だが20日に一度、一本約2000円の水を最低二本から交換しなくてはならない契約書だった。
うかれて職場に戻りその話をすると、スタッフもここ数日で3人2等が当たっているとのこと。
ポプラに慌てて戻ると、すでにまた2等を当てた人がサーバーを選んでいる。
私は契約書を回収した。
饒舌だった、くじ箱をもった男は無言になった。
そのサーバーが素晴らしいもので、
水も綺麗で素晴らしいもので、
飲むだけで一生病気にならないとしても、
「汚ねぇ」

2012年12月7日金曜日

左耳

左耳の聴覚が失われ
自分の話す声が脳に反響する

心地よい言葉だけ話す
心地よい言葉だけ聴く

2012年12月5日水曜日

詩人と絵描き

そのひと文字先に
そのひと筆先に
輝くものがあると信じて
詩人は綴る
絵描きは描く
失われゆくものの多さに絶望しながら
現すことのできないものの多さに絶望しながら

2012年12月4日火曜日

2012年12月3日月曜日

あがらう

揺り起こされて目覚めた
木彫りの女が飛び降りた
枠の中が水で溢れた
停止した街を闇が覆う
枠の中に炎が満ちる
停止した街を哀しみが覆う

動き出した分裂が
命を切り刻んでいく
人波が黒いシステムを囲いこむ
流されないものを流そうとしている
流そうとされるものを流すまいとしている
白い波ではなく黒い波に
紙片を持ちあがらう

2012年12月2日日曜日

歯車

はじめにあった光を
果てへとつたえる
誰もがひとつの
歯車

2012年12月1日土曜日

課題

木枯らしに
向かい立つなり
スカイツリー

課題なの
まだ見ぬ景色
ひねる母

季節が来て 人ははなれて 風が吹く 冷たい手のひらで 去っていく 金魚 煙であればいい 背徳の館に 君の影が さす